サイエンス

2025.12.31 17:00

生物学の定説を覆した「有毒鳥」、ズグロモリモズの秘密

ズグロモリモズ(Shutterstock.com)

その理由は、バトラコトキシンが、神経伝達や筋肉の収縮に欠かせない「電位依存性ナトリウムチャネル」に作用するステロイドアルカロイドだからだ。多くの毒素はこのチャネルを遮断するが、バトラコトキシンは逆に、チャネルを開放したままにする。すると、次のような症状が起こる。

advertisement

・神経伝達の制御ができなくなる
・筋肉が麻痺する
・不整脈が起こる

人間がこのバトラコトキシンに触れると、少量であれば、しびれやヒリヒリとした刺激、燃えるような感覚を覚える。大量の場合は死に至る可能性もある。

区別すべき重要な点がある。ズグロモリモズは、毒ヘビや毒針を持つ昆虫と異なり、標的にバトラコトキシンを注入するわけではない。ズグロモリモズの毒は、接触や摂取を通じてのみ効果を発揮する。この意味で、ズグロモリモズは実際のところ、攻撃性のある有毒動物というよりは、化学的な防御手段を持つ生物であり、毒を持つカエルやフグに近い。

advertisement

ズグロモリモズの毒性に関する最も重要な発見の一つは、ダンバッカーら研究チームが2004年に『米国科学アカデミー紀要』で発表した追跡調査で明かされている。ズグロモリモズは、自らの体内でバトラコトキシンを合成しているわけではない。興味深いことに、バトラコトキシンは餌を通じて体内に取り込まれ、蓄積しているのだという。この仕組みは「sequestration(隔離・蓄積)」として知られている。

具体的に説明しよう。ダンバッカーは、ジョウカイモドキ科コレシン属(Choresine)の甲虫が、最も考えられる原因だと突き止めた。これらの甲虫はバトラコトキシンを持っており、ズグロモリモズはジョウカイモドキ科の甲虫を餌としてよく食べていることが知られている。

興味深いことに、研究チームは、同種の毒素はヤドクガエルにも見られると指摘した。そして、飼育下にあるヤドクガエルは毒性を持たない。毒素を含まない餌を与えられるためだ。

皮膚と羽毛に毒をもつズグロモリモズ(Shutterstock.com)
皮膚と羽毛に毒をもつズグロモリモズ(Shutterstock.com)

ズグロモリモズが、自らの毒に侵されないのはなぜか

こうなると、当然の疑問が湧いてくる。バトラコトキシンは心毒性と神経毒性が最も強い毒の一つとされているのに、ズグロモリモズがそれを体内に蓄積できるのはなぜなのか、という疑問だ。ほぼすべての脊椎動物を死に至らしめる化学物質に触れても、ズグロモリモズが生き延びられるのはどうしてなのだろう。

その答えは、ズグロモリモズのナトリウムチャネルが変異しているところにある。そのため、バトラコトキシンへの感受性が低下しているのだ。

学術誌『Journal of Chemical Ecology』によると、同様の耐性メカニズムは、ヤドクガエルや、毒素に抵抗力のある一部のヘビにおいても、それぞれ独立して進化している。その変異は、毒素の影響を完全に排除するものではないが、毒素の結合を抑制することで、神経信号の伝達に致命的な影響が及ぶのを防いでいる。

次ページ > ニューギニアに生息する他の鳥類からも、バトラコトキシンが少量ながら検出されている

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事