いいことや楽しいことより、悪いことばかりが頭に浮かんできて気が滅入る。それは、いいことより悪いことのほうを記憶しやすい脳の悪いクセ(記憶バイアス)だ。そんな状態が続くと、うつ病や不安障害に移行しかねない。そうなる前に、この記憶バイアスを和らげて、ストレス回復力を高める画期的なプログラムが現れた。
富山大学、北里大学、国立精神・神経医療研究センター、金沢大学、京都大学による共同研究グループは、ストレスが原因の精神障害の発症リスク、または記憶バイアスがある人のための「記憶バイアスを和らげる認知介入プログラム」(CBM-M)を開発し、実験によりこれが有効であることを実証した。
実験は、うつ病や不安障害の発症リスクを持つ58人の成人を対象に行われた。そのうち29人にはCBM-Mを、あとの29人には偽のプログラムを無作為に割り当て、1カ月間、オンラインで1回10分程度のセッションを8回受けてもらった。CBM-Mを受ける人たちには、ポジティブな単語とネガティブな単語を覚えたあとに、ポジティブな記憶の「想起促進モジュール」を行った。偽プログラムには想起促進モジュールがない。
実験の実施前後で、脳のMRI検査と、ストレスホルモンとして知られるコルチゾールの量の測定を行ったところ、ストレスの影響を受けやすい「ストレス脆弱性」と、覚えた単語のうちネガティブなほうを思い出す傾向を示す「顕在記憶バイアス」が明らかな低下し、コルチゾールの分泌量も大幅に減っていた。これら2つには相関関係も見られた。
また、不安などの情動を処理する脳の右扁桃体と、心地よさの評価を行う内側眼窩前頭皮質の間の機能結合が増加していることもわかった。つまり、不安と「いいこと」の偏りのない評価が可能になったわけだ。
CBM-Mの実効性が明らかになったことで、これまで認知行動療法では対応が難しかった情報処理パターンのゆがみという「精神病理の根本にある認知現象」に直接的に働きかける予防や治療への道が拓かれたということだ。



