ここで起きているのは、AI投資が電力投資に直結し、許認可と系統、立地戦略に直結するという構造変化だ。データセンターが建つ場所は、土地の値段だけで決まらない。電源の確保、送電網の容量、再エネの調達可能性、系統接続の手続き、地元との合意形成がセットになる。成長投資は、プロダクトや市場規模の議論に加えて、エネルギーとインフラの議論を同時に内包するようになった。
この変化は、GX担当部門だけの話ではない。新規事業、情報システム、経営企画、調達、広報、法務まで巻き込む全社の設計問題になる。
さらに監視が強い社会では、電力の手当てを曖昧にしたままAIを語ること自体が、説明責任の観点からリスクになり得る。市川氏が言う「実行と説明責任」という言葉は、ここでも重い。成長戦略とGXを別々に語ってきた企業ほど、統合が急務になる。

日本でも「監視→政治→財界→企業」が動き始める
では日本はどうか。市川氏は、日本でも「監視→政治→財界→企業」という連鎖が動き始めていると見る。市民社会の目覚めが政治を動かし、政治の変化が財界の前提を変え、その前提が企業行動を変える。これは理想論ではなく、制度と資本、世論の相互作用が生むメカニズムだ。いまはその入口に差しかかっている。
企業にとっての分岐点は、変化を待つか、織り込んで先回りするかである。先回りとは、目標を高く掲げることではない。実行を可能にする設計を先に作ることだ。
何を優先し、どのデータを開示し、どの第三者性を担保するのか。電力制約を含む事業成立条件を整理し、提携や立地、調達の順序を組み替えるのか。海外の動きをニュースではなく「規制×産業政策×供給網」の情報として読み替え、投資や商品戦略に落とし込めるのか。これらはすべて、イントレプレナーの意思決定に直結する。
GXが実行と監視のフェーズに入った以上、勝敗を分けるのは理念ではなく実装だ。外部環境が静かに前提を更新するなら、企業側も静かに設計を更新しなければならない。市川氏の言う「執行の時代」とは、企業が自らの実装能力を競争力として鍛え直す時代でもある。


