ウクライナ当局は10月、ロシア国家親衛隊の将校が、同国中部ケメロボ州で自動車爆発により死亡したと発表した。同将校は、ウクライナの首都キーウ近郊の民間人への残虐行為に関与したとされていた。ウクライナ当局は今月にも、ロシア占領下にあるウクライナ南部ヘルソン州で車両を爆破したと発表。同車両には、ウクライナで戦争犯罪を犯したとされる部隊に所属するロシア軍兵士が乗っていた。
一方、ロシア側も今年に入り、秘密作戦を強化している。ウクライナ保安庁の幹部が7月にキーウの住宅地にある駐車場で白昼に射殺されたほか、翌月には同国の国会に当たる最高会議の元議長が西部リビウで銃撃により死亡した。
ロシアの防諜活動には構造的な欠陥が
専門家らは、この動きはウクライナが戦争を遂行する手法の意図的な転換を反映していると指摘する。筆者の取材に応じた元米陸軍情報将校のジョン・スウィートは、ウクライナが暗殺の黒幕である可能性が高いとみている。「ウクライナは今、できる限り攻撃的に動いている。それが特殊作戦だ。同国は、クレムリンの力の誇示とは裏腹に、ロシアはモスクワにいる軍幹部や戦争資金を生み出す資産すら守ることのできない空虚な軍事力しか持っていない脆弱(ぜいじゃく)な国であることを西側諸国に示そうとしているのだ」
ウクライナのキーウ・モヒラ・アカデミー国立大学で政治学を専門とするタラス・クジオ教授は筆者の取材に対し、ロシアで起きた一連の暗殺事件の背後にウクライナがいることに疑いの余地はまずないと強調した。他方で、ロシアもウクライナ国内で秘密工作を展開していると指摘した。
クジオ教授は、ウクライナ政府が自国領内のロシア占領地域で同国の旅券(パスポート)を所持するウクライナ人工作員やロシアの反体制派、ウクライナ愛国者への依存を強めていると説明した。その目的は、ロシアの製油所や同国が制裁を逃れて原油を輸出するために編成した「影の船団」への攻撃のほか、同国の兵士の戦闘意欲を低下させ、戦争をロシア国内に持ち込むことにある。
同教授の見解に、ウクライナ当局者もほぼ同意している。ウクライナ最高会議のオレクサンドラ・ウスチノワ議員は筆者に、「戦術的な成果という点では効果を発揮している」と語った。
一方、ロシアの防諜(ぼうちょう)活動には構造的な欠陥があるようだ。ベルギーに拠点を置く欧州政策分析センター(CEPS)のアンドレイ・ソルダトフ上級研究員は英紙フィナンシャルタイムズに対し、ロシア連邦保安庁(FSB)は事後調査には長けているが、攻撃の予見には向いていないと指摘。「これら2つの役割には全く別の技能が求められる」と説明した。
ウスチノワ議員によれば、軍高官らの暗殺事件を受け、ロシアの防諜機関は今年初めに防衛対策を強化したという。だが、今回の暗殺がウクライナの情報機関によるものだと断定されれば、「影の戦争」では同国が一歩先を行く作戦を展開していると言えよう。


