DTMで音楽を“組み立てる”──直感が作曲の入口に
しかし、完全オンラインでの音楽教育は一体どう成立するのか。
体験会では、音楽コース主任の作詞作曲家、エガワヒロシ氏による制作プロセス映像を見た。DTMの作曲プロセスは驚くほどシンプルで直感的だ。もちろんソフトを自在に扱えるようになるには一定の習熟は必要だが、それでも一から楽典を学び、楽器を習得するよりははるかにハードルが低い。
音が立ち上がり、構造を持ち、作品へと近づいていく過程が示される15分間のデモは、「音楽はまず五線譜の上に構造をつくってから表現」という常識を超えた、音楽制作の新しい最初の一歩が可視化されている印象だった。
「作れる」だけで終わらない──当然理論も
さて、DTMによって入口のハードルは下がるが、「好きに作ってみる」からさらに表現を広げたい人にとっては、技法や理論をどう深めていくかも重要になる。
その点について、原文雄氏(音楽コース講師、作編曲家、「音楽の仕組み(音楽理論)」など担当)は「直感で始められるからこそ、理論や技法を“後から”体系的に身につけられるよう設計しています」と説明する。
クラシックの作曲家が長い年月をかけて学んできた和声・作曲法・アレンジメントなどの理論を、オンライン上で段階的に学ぶことができる。実際に作ってみて生まれた疑問を、理論で“回収する”ように理解していくという学び方らしい。
一つ、質問できる回数に実質的な制限がないのは魅力的と感じた。気になったことはオリジナルアプリ「airU(エアー・ユー)コミュニティ」から質問できる。加えてオリジナルの学習用Webサイト「airU」には、つまずきやすいポイントを補う補助教材や、教員の解説投稿が随時アップされていくという。
「作品」で終わらせず社会につなぐ試み
体験会に参加して新しいと感じたのは、京都芸術大学が「つくること」をゴールにしていない点だった。音楽は誰かに届くことで価値を発揮する。その前提に立ち、どのように活かし、どんな場面で機能するのかまでを教育の範囲として扱おうとする点だ。
確かに、カリキュラムには社会と音楽の接点が多角的に組み込まれている。映像作品を支える劇伴音楽、地域の空間に“音のデザイン”を施す取り組み、広告・ブランド開発のサウンドロゴ、ケアや医療現場における音の応用など、音楽を「作品」ではなく、“社会の中で働く機能”として捉える視点だ。
「通信制の総合芸術大学」という土壌
京都芸術大学が総合芸術大学であることも、本音楽コースの大きな強みのひとつという。前出の「airU」には、学びを助ける機能のほかに、デザインやイラストを学ぶ他学科の学生も集まる「交流の場」としての機能がある。多様な専攻を持つ者同士が同じオンライン空間にいるからこそ、思いがけない出会いやコラボレーションの芽が育つ可能性がある。
たとえば、映像コースの学生が制作するショートムービーに音楽をつける、グラフィックデザインコースの学生とサウンドロゴを開発する、イラストレーションコースや映像コースの学生とミュージックビデオを共同制作する、といったコラボレーションも可能かもしれない。音楽が単体のスキルではなく、他分野と掛け合わさることで新しい意味や機能を獲得していく。総合芸術大学ならではの交差点だ。
なお、既存の学部には10代から90代まで幅広い世代の学生が在籍し、学び直しや自分のタイミングで始める挑戦が自然なこととして受け入れられているという。年齢やバックグラウンドに関係なく、学びたいと思った瞬間が入口になるというデザインだ。
音楽に向かう方法はこれからも多様になり続ける。その一場面を垣間見る体験だった。


