経営学者サラス・サラスバシーは、不確実制の高い状況で新たな事業を成功させた起業家に5つの思考原則があることを発見した。それが、「手持ちの資源を生かす」思考様式「エフェクチュエーション」だ。
「エフェクチュエーション」は、「手段主導」、すなわちすでに持っている人脈、スキルをピボットフットにして行動し、価値の向上や革新を目指すようなスタイルだ。今、サラスバシーの分析が、たしかに昨今の不確実性の高い状況で有効であることが証明されつつある。本稿では筆者が目撃したその1例として、岐阜県山県市の服部樹脂を紹介したい。
なぜピンチを脱せたか?
「いきあたりばったり、の連続でなぜうまく行ったのかもよくわからないんです」
岐阜県山県市に拠点を置くプラスチック成型加工の町工場、服部樹脂の服部建夫社長は、そう謙遜しながら語ります。百均向け商品の製造下請けがメインで、大口取引先を失いピンチを迎えたにもかかわらず売上はV字回復。同社が製造・販売するフラワーベース(花器)は、現在、全国の花屋むけの主力商品としての地位を確立しています。社員6名、パート7名という小さな規模でありながら、なぜピンチを脱することができたのでしょうか。売上のV字回復と高収益の秘訣を探ります。
社長は自社の歩みを「行き当たりばったり」と表現しますが、その一連の行動を客観的に分析すると、不確実性の高い現代における資源の再評価、偶発的な機会の探知、そして継続的な行動と学習を基軸とした、極めて合理的な経営戦略が機能しています。
今最も注目されている経営理論「エフェクチュエーション」の視点から、服部樹脂がV字回復を遂げた軌跡を学ぶことは、あらゆるビジネスパーソンにとって有意義なはずです。
コロナ禍やウクライナ侵攻、急激な円安や少子高齢の加速など、企業経営を取り巻く環境はますます不安定で、先行きが不透明だからこそ、成果を生み出す「行き当たりばったり戦略」に着目したいと思います。



