「行き当たりばったり」は、「エフェクチュエーション」戦略の結果
服部樹脂の事業転換の物語は、経営学の世界で提唱されている「エフェクチュエーション」という起業家的な思考法の実践例として捉えることができます。バージニア大学のサラスバシー教授によって提唱され、成果を上げる卓越した起業家たちに共通する5つの行動様式を、理論化したものです。
エフェクチュエーションとは、未来を予測し完璧な計画を立てるのではなく、「いま、自分たちが何を持っているか(資源)」を出発点とし、「お金をかけずに、小さなチャレンジ」を繰り返すこと。そしてそうした中で、「誰と出会うか(パートナーシップ)」を通じて偶発的な出来事をチャンスに変え、未来を「つくり出していく」という考え方です。
服部社長の取り組みは、このエフェクチュエーションで説明できるのではないでしょうか。先行きが困難の中でも、
1. 自社資源の活用(手中の鳥の原則): 資金はないが、「モノをつくる力」という既存の成型技術資源に焦点を当てた。
2.お金をかけない挑戦(許容可能な損失の原則): 既存の製造リソースを応用できる範囲内で事業を展開し、リスクを限定しながら行動した。
3. パートナーシップ(クレイジーキルトの原則): 予期せぬ葬儀業者からの電話という偶然を起点に、そのニーズを解決することで、新たな取引先や販売チャネルを戦略的に拡大していった
4. 見方を変えて強みに変えた(レモネードの原則): 手間と苦労と感じてきた100円ショップ向けの小口での他店舗向け発送のオペレーションも、見方を変えれば全国の花屋向けに、かゆいところに手が届く強みと変えた
5. 諦めずにもがく(パイロットの原則): 主力取引先の相次ぐ離反と売上大幅減の中でも、なんとかするしかないと手紙を書き、全国100カ所以上に直接出向き営業を行うなど、諦めることなく自分でなんとかできるはずと信じてもがいた
といったように、エフェクチューションの5つの原則がまさにあてはまる事例といえるでしょう。
柔軟だからこその「行き当たりばったり」
「行き当たりばったり」は、計画の欠如ではなく、見方を変えれば、動きながら学習し変化を許容する柔軟性の高さとして再定義されます。
服部樹脂の逆転劇は、完璧な計画の追求よりも小さな行動を積み重ね、目の前の偶然を、未来を形成する糸口として捉えることの重要性を示しています。
この行動の力こそが、不確実性の高い現代において「最強の戦略」となり得るのです。
もちろん、未来を予測し目標設定した上で、そこから逆算した事業計画に基づき事業推進が可能であれば良いでしょう。
しかし、あまりに不確実性の高いこの時代、常に前提が変わり得ます。そして、多くの中小企業は日常の業務に忙殺される日々。ヒト・モノ・カネすべてに課題がある中小企業、そんな中で明確な目標を定めたり、あるいは目標を定めそこから逆算して計画を作っても、それを実現するためのリソースが足りないこともまた往々にしてあるのではないでしょうか。
大企業が予測に基づく「コーゼイション」戦略(目標から逆算する計画)を前提とすることが多いのに対し、あらゆる経営資源が乏しい中小企業こそ、創造に基づく「エフェクチュエーション」戦略(手持ちの資源から始める行動)が有効だと考えます。
この、岐阜県の樹脂成型工場・服部樹脂の取り組みは、エフェクチューション戦略の重要さを教えてくれるでしょう。そして、勇気を与えてくれるのです。


