経営・戦略

2025.12.28 15:15

百均下請け町工場、「穴のない鉢でV字回復」はエフェクチュエーションのお手本だった

岐阜県山県市(旧高富町)に立地する服部樹脂

地方の小規模店舗を味方につけた「小口配送戦略」「小さな花屋さんでもメーカーから直接買えるように」

この穴のない花器をそれで終わらせず、服部社長は次なる市場への展開へ着手しました。北海道の葬儀場のニーズは、同じように全国のお花屋さんや、その先にある葬儀場などの現場にもあるだろうと考えたからです。

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分厚い「花業界の問屋・名鑑」を手に、北海道から沖縄まで約100社を直接訪問しました。この活動の結果、60社が新規取引先となり、販路が全国に一気に拡大しました。

服部樹脂のフラワーベースは、「穴がない」「デザインが良い」「価格が手ごろ」という点で評価されましたが、さらに決定的な競争優位性となったのは物流・販売の仕組みでした。

一般的な地方の小さな花屋は、問屋を経由するため、通常10ケース単位という大ロットでの仕入れが必須でした。服部樹脂は、「小さな花屋さんでもメーカーから直接買えるようにしたい」という思いから、メーカーから直接、1ケースから直送できる小口配送オペレーションを構築しました。ここで生きたのが、これまでの100円ショップとのお取引。100円ショップへ、各店舗に小ロットで配送してきた実績があったのです。

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これまで、100円ショップの求めに応じて小口で多数の箇所へ配送をおこなってきたことは、負担が大きく随分苦労したといいます。しかし、この苦労も見方を変えれば、小さなお花屋さんへのかゆいところに手が届くサービスとなったのでした。

これは、中間流通業者を排除し、最終顧客である小規模事業者のニーズ(少量多頻度)に応えるという戦略です。この戦略により、服部樹脂は他社が対応できないニッチな市場セグメントを確実に獲得し、現在では1日数百件の出荷を可能にする競争優位性を確立しています。

単に穴のない鉢であることやデザイン性のみで勝負すれば、競合に模倣され価格競争になることは想像に固くありません。しかしこの小口配送のノウハウは、低コスト競争を避け、「他社は10ケース単位、当社は1ケースから」という具体的な違いが、構造的な競争優位性を確立しています。

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文=秋元祥治

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