経営・戦略

2025.12.28 15:15

百均下請け町工場、「穴のない鉢でV字回復」はエフェクチュエーションのお手本だった

岐阜県山県市(旧高富町)に立地する服部樹脂

崖っぷちからの「資源の再評価」、売上9割を占めるメイン事業の売上減という危機

かつて服部樹脂の売上の約9割は、大手100円ショップ向けのプラスチック製品製造が占めていました。しかし、この主力事業は、崩壊の危機に直面します。アジア諸国からの低コスト製品の流入に対抗できなくなり、主要取引先からの契約打ち切りが相次いだのです。服部社長は当時を振り返り「売上は4割減。会社を続けるのも難しいかもしれないと感じていた」と述べるほど、経営の危機を迎えたのでした。そして、特定の取引先や商品群に依存する事業構造の脆さを痛感したとも言います。

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経営危機に直面した服部さんは原点に立ち返り、自社の経営資源は一体何があるのか棚卸しすることから始めたといいます。とはいえ地域の小さな町工場であり、資金やブランド力といったものはほとんどありません。結局は、 長年培ってきたプラスチックの精密成型技術と、生産設備、そしてモノづくりを実行できる社員・パートが存在するという原点に至ります。

続々と樹脂製品が製造されていく製造工程
続々と樹脂製品が製造されていく製造工程

北海道からの偶然の「一本の電話」をチャンスへ

同業他社が無印良品の商品をつくっていると聞き、我が社も同じように大手へプラスチック雑貨などを納品できないだろうか…と考えた服部社長はまずホームセンターの社長へ手書きの手紙を送るなど営業活動を始めることにしました。しかし、小さな町工場からの突然の手紙にお返事は来ることは、やはりありません。ジリ貧のなかで、日々をもがいていたといいます。

過去のエピソードを話す服部社長
過去のエピソードを話す服部社長

事業転換の決定的な契機となったのは、予期せぬ外部からのインプットでした。ある日、北海道の葬儀業者から「100円ショップで販売されていた植木鉢がほしいんだけれど、売ってくれないか?」と探して電話がかかり、そして、300個ほどの注文が入ったのです。

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単に少々の注文が入っただけのこと…と、いえばそれまでですがこのとき、服部さんは「なぜ葬儀業者が植木鉢を必要とするのか」ということが気になり、尋ねたといいます。いわば、顧客の真のニーズ(潜在的な課題)の深掘りです。このなにげない問いかけに対して、葬儀業者からは「供花を飾る鉢に便利なので使っているが、しかし、底の穴から水漏れするため底にラップを敷いている」という情報が得られました。

ただの小口の注文お電話があっただけのこと。しかし、そこでそのニーズの背景をさぐったことが、大きな転機となるのでした。小さな困りごと、そこにビジネスの可能性を見出したことが、ターニングポイントとなります。

服部社長は、この課題に対し「じゃあ、最初から穴のない鉢をつくればいいじゃないか」という解決策を見出します。服部樹脂の成型技術で穴のない鉢をつくるのはわけのないこと。北海道の葬儀場の困りごとから、これまで気づくことのなかった顧客のペインを解消する新製品開発に直結しました。

自宅などでお花を育てるためには水はけの良い穴開きの鉢が求められます。しかし、葬儀場など、そのイベントの現場で花を飾りたいが水が漏れては困る……という現場では、穴のない鉢のほうが必要だという気づきです。

試作品を迅速に提供した結果、追加注文を獲得し、現在の主力製品であるフラワーベース事業の起点となりました。

一見、行き当たりばったりのように見えるこの転機も、偶発的な機会を、「既存技術」と「顧客洞察」によって具体的に製品化につなげたという出来事でしょう。

次ページ > 地方の小規模店舗を味方につけた「小口配送戦略」「小さな花屋さんでもメーカーから直接買えるように」

文=秋元祥治

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