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2025.12.25 16:00

スポーツアパレル大手ルルレモンを去った創業者、古巣を批判し続ける理由

Photo by Sven Hoppe/picture alliance via Getty Images

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カナダのスポーツアパレル大手Lululemon(ルルレモン)は、ヨガウェアを起点にアスレジャー市場で成長し、ブラックフライデーには店舗が過密になるほどの定番ブランドだ。しかしその成功の象徴であった株価が2023年12月のピーク以降急落し、現CEOの2026年1月退任が発表された。この局面でひときわ存在感を強めているのが、Lululemon創業者のチップ・ウィルソンだ。

ウィルソンは2013年に会長職を退き、2015年には取締役も辞任して取締役会から離脱した。しかし、現在も筆頭個人株主として8.4%の株式を握っており、取締役会の人選と後継者選びに介入する姿勢を強めている。米証券取引委員会(SEC)への提出書類で自ら動く可能性まで示したほどだ。ただ米国では、大株主がSEC提出書類や委任状争奪戦で取締役会に圧力をかけるなど、経営の意思決定に影響を与える例は珍しくない。

ウィルソンは長年、現経営陣を「ブランドの魂を失った」と公然と批判してきた。今回のCEO退任劇は、北米売上の鈍化にあえぐ取締役会に対する“物言う創業者”の勝利とも映る。本稿では、新興ブランドの台頭による競争激化と、取締役会から離脱した創業者による執拗な経営介入という、2つの危機に直面する王者Lululemonの現在を整理する。

店舗は活況だが株価は低迷、カルビン・マクドナルドCEOが2026年1月に退任の事態に

米テキサス州ダラスにあるLululemonの店舗は、ホリデーシーズンの週末になると、ほとんど身動きが取れないほど混み合う。高級モールの中でも特に人出が多いこの店は、ブラックフライデーには親のクレジットカードを手にした10代の少女や、新しいピラティス用ウェアを探す中高年の女性で埋め尽くされる。

年末商戦の最終集計はまだ出ていないものの、Lululemonの2025年の売上高は過去最高の110億ドル(約1.7兆円。1ドル=155円換算)規模に達する見通しだ。直近四半期では北米売上が2%減少した一方、海外売上は33%増加し、全体では7%の増収を確保した。

Lululemonは、物議を醸す創業者のチップ・ウィルソンが退任後に繰り返し批判してきたような、「経営破綻寸前の企業」ではないものの、ここ数年、業績と時価総額の伸び悩みに直面してきたのも事実だ。時価総額は2023年12月に640億ドル(約9.9兆円)でピークを付けた後、株価が59%下落したことで約250億ドル(約3.9兆円)にまで縮小した。

こうした背景を踏まえれば、同社が最近、カルビン・マクドナルドCEOが2026年1月で退任すると発表したことは自然な流れだった。好調な四半期決算と同時に出されたこの発表が、株価を11%押し上げたことも驚きではない。

筆頭株主である創業者チップ・ウィルソンが勝利を宣言し、取締役会の刷新を強く要求

ウィルソンが保有するLululemon株の価値は、1日で1億8000万ドル(約279億円)上昇し、総額21億ドル(約3255億円)に達した。彼は、自ら発表したプレスリリースで、「長年にわたる誤った判断がブランドを蝕み、株主価値を破壊してきた」と経営陣を非難したうえで、「私が圧力を強めた結果、ようやく取締役会が耳を傾け始めた」と主張した。

マクドナルドCEOの退任が決まった現在、ウィルソンは自身が創業した会社との長年の対立で大きな勝利を収めたかのように見える。しかし、彼はこれで手を引くつもりはない。ウィルソンによれば、取締役会はまだ明確な後継者計画を示しておらず、新CEOの選定に助言を行う「刷新された、経験豊富な取締役」を新たに加える必要があると主張している。

ウィルソンは12月15日に米証券取引委員会(SEC)へ提出した書類の中で、自身が「明白で豊富な経験」を持つ業界のベテランであり、かつLululemon株の8.4%を保有する筆頭個人株主であることを強調した。そのうえで、自らの提案が無視されるのであれば、取締役会を「刷新する」ために独自の行動を取ることも辞さない姿勢を明確にした。なお、ウィルソンの発言に関するコメント要請に対し、Lululemonは回答しなかった。

Lululemon競合になりかねないアメアスポーツの株式をより多く保有

米調査会社モーニングスターでLululemonを担当するアナリスト、デービッド・シュワルツは、「これは何らかの圧力をかけるための牽制にすぎない可能性もある」と語る。「ウィルソンは、自身が取締役会に入りたいと考えているのかもしれない。ただ、ここにはいくつかの問題がある。まず、取締役会は、彼をあまり好んでいないと私は考えている。ウィルソンは、アメアスポーツとの関係において利益相反を抱えている可能性がある。同社は、Lululemonの競合と見なされかねない企業であり、ウィルソンはLululemonよりも多くのアメアスポーツの株式を保有している」。アメアスポーツは、プレミアムアウトドアウェアArc'teryx(アークテリクス)、スキー用品トップブランドAtomic(アトミック)、テニス用品ブランドWilson(ウイルソン)といったブランドを傘下に持つスポーツ用品・アパレル企業グループだ。

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翻訳=上田裕資

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