メンズ事業の拡大戦略が進む中で、創業者は女性向け製品への回帰を訴える
これに対し、Lululemonは女性向けアクティブウェアにとどまらず、メンズウェアやアクセサリーなどへと商品領域を拡大してきた。2022年には、メンズウェアを成長の軸に据え、2026年までに売上高を125億ドル(約1.9兆円)へ引き上げる5カ年計画を打ち出した。その後2024年には、メンズアパレルが年間売上の約25%を占めるまでになった。
しかしウィルソンは、こうした方向転換そのものが誤りだと考えている。連続起業家のウィルソンは1998年、カナダ・バンクーバーでLululemonを創業した。背中を痛めた後に参加したヨガクラスで、インストラクターのウェアが薄く体が透けて見えることに気づいたのが出発点だった。女性の体に合わせて設計された高品質のヨガウェアが必要だと感じたという。当時のスポーツウェア業界では、男性向け製品を女性用に流用するケースが一般的だった。
女性の体型、人種、児童労働、ダイバーシティなどに関する主張で物議を醸すも、ブランドの成長は継続
1990年代後半から2000年代初頭にかけてアスレジャー人気が高まる中、Lululemonは高級ヨガパンツの代名詞として成長を遂げた。女性の体型、人種、児童労働、ダイバーシティ関連でウィルソンが引き起こした論争が続く一方で、ブランドの拡大は衰えなかった。2013年に彼が会長職を退き、2年後に取締役会から完全に外れた後も、その勢いは維持された。
商品とブランドを再び中心に据えるべきと主張し、「原点回帰」を求める
現在、ウィルソンはブランドの「原点回帰」を呼びかけている。2025年10月、WSJに掲載した全面広告で、彼は「商品とブランドを再び中心に据えよ」と訴えた。「数字の上では、Lululemonは依然として良好に見える。しかし、魂を失いつつある」とウィルソンは主張した。
アメアスポーツへの投資で成功を収めつつ、創業した企業への関与を継続
それでも、こうした一連の出来事にもかかわらず、ウィルソンの資産は、2023年にLululemonがピークを迎えた時期とほぼ同じ水準を保っている。その大きな要因となっているのが、アメアスポーツへの投資だ。ウィルソンは2019年、約10億ドル(約1550億円)を投じて同社の株式の約21%を取得しており、その判断が結果的に大きなリターンをもたらした。
アメアスポーツは、もともとフィンランドで学生グループ4組によってたばこ会社として創業された企業で、その後、多国籍のスポーツ用品メーカーへと成長した。2024年にはニューヨーク証券取引所に上場し、同年売上高は52億ドル(約8060億円)に達した。これは2023年から18%の増加で、WilsonやArc'teryxの好調が全体を押し上げた。
アメアスポーツ株の価値が急上昇、しかし関心の中心はLululemon
アメアスポーツの取締役も務めるウィルソンは現在、同社株を約30億ドル(約4650億円)相当保有している。同社株は上場以降194%上昇しており、その評価額は、ウィルソンが保有するLululemon株をおよそ10億ドル(約1550億円)上回る水準にある。ウィルソンはこのほか、耐久性タイツで知られるSheertex(シアテックスなどのファッション関連企業や、不動産投資会社Low Tideにも資金を投じてきた。また、自身が数十年にわたって患ってきた希少な筋ジストロフィーの一種である顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)の治療や研究を支援するため、1億ドル(約155億円)の寄付を約束している。
ただし、こうした投資や資産の増減とは別に、ウィルソンの関心の中心にあり続けているのがLululemonだ。株価が上がろうと下がろうと、このブランドの存在感は、ほかの事業を凌いでいるように見える。2025年10月、WSJに掲載した意見広告で、ウィルソンはこう記した。「世界は、四半期業績に縛られた凡庸なアパレル企業を、これ以上必要としていない。Lululemonが再び大きく飛躍するために必要なのは、大胆なビジョンだ」。


