ビジネス

2025.12.25 16:00

スポーツアパレル大手ルルレモンを去った創業者、古巣を批判し続ける理由

Photo by Sven Hoppe/picture alliance via Getty Images

経営の第一線を退いた後もLululemonを批判し、広告や戦略に異議を唱える

ウィルソンは、2013年に経営の第一線から退き、2015年に完全に会社との関係を断った。それ以降、10年以上にわたって会社に関与していないにもかかわらず、アスレジャー大手Lululemonに対する執拗な批判者であり続けてきた。ウィルソンはかつて、透けるレギンスの問題を「一部の女性の体形」に帰した発言で強い批判を浴びたこともある。

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ウィルソンは、会社と袂を分かって以降、保有株の75%を売却し、他の事業や投資で数十億ドル(数千億円)規模の利益を上げてきた。それでも、控えめにいえば距離を置かれ、厳しく見れば敵対的ともいえる姿勢を示してきた同社との関係を断ち切れずにいる。ウィルソン自身も、強硬な姿勢を崩していない。

彼は、2024年にはLululemonの広告におけるダイバーシティを激しく批判し、一部の広告に登場するモデルが「不健康だ」「病的だ」「刺激にならない」と非難した。2025年10月には、「Lululemon、急降下」と題した全面広告を米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に掲載した。

ウィルソンがこれほど憤っている理由の一端は、自身の資産価値の目減りにあるとも考えられる。Lululemonの株価がピークを迎えた2023年12月時点では、ウィルソンが保有する約1000万株の価値は52億ドル(約8060億円)を超えていたが、現在は21億ドル(約3255億円)にまで減少している(仮に、ウィルソンが2014年前後に会社を離れた当時に保有していた約4000万株をすべて持ち続けていれば、その価値は83億ドル[約1.3兆円]を超えていた計算になる)。個人として最大の株主であるウィルソンは、この2年間、Lululemon株によって最も多くの資産を失った人物でもある。

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株価上昇局面でも経営方針に不満を漏らし、買収による巨額損失を主張

もっとも、ウィルソンの不満は金額面の問題にとどまらない。彼は、2014年にCEOの座を離れて以降も、ブランドが「道を見失った」と、ほぼ10年にわたって不満を言い続けてきた。その間、Lululemonの売上高は2014年の約18億ドル(約2790億円)から、ウィルソン不在のまま110億ドル(約1.7兆円)へと拡大し、株価も直近2年の不安定な局面を挟みながら、累計で220%上昇したにもかかわらずだ。2016年には、ウィルソンは公開書簡で、Lululemonが「道を見失った」と改めて主張した。2017年には、本社の向かいにあるバス停に広告を出し、競合のアンダーアーマーの買収を促したこともある。

2020年末時点で株価は2015年の5倍に達していたが、それでもウィルソンの不満は収まらなかった。2024年10月、ウィルソンは、Lululemonが2020年に在宅フィットネスブランドのMirrorを買収した判断について、5億ドル(約775億円)の買収で「10億ドル[約1550億円]を無駄にした」と主張した。Lululemonの株価がピークを迎えた当時、モーニングスターのシュワルツはフォーブスに対し、「彼(ウィルソン)はいくらでも好きなことを言えるが、数字が示しているのは、この会社に彼は必要ないということだ」と語っていた。しかし、商品面での新鮮味の乏しさと競争の激化を背景に、足元でLululemonの売上が伸び悩む中、状況は変わりつつあるのかもしれない。

新興ブランドの急成長とインフレの影響で、市場の競争環境が激化

シュワルツは「直近の問題を除けば、この7年間、ほとんどの指標で見てLululemonは成功してきたと言える」としたうえで、「現実には、アクティブウェア市場全体、なかでも女性向けアスレジャー分野は、この数年で格段に競争が激しくなった」と指摘する。

小規模ながら成長の速いアパレルブランドも、Lululemonのシェアを浸食している。セレブリティの起用やストリートウェア志向を前面に打ち出すAlo Yogaは、2021年時点の10〜15店舗から130店超へと拡大し、パンデミック以降、売上高は推定で10倍に増えた。一方、品質面でLululemonに匹敵する商品力を持ち、当初は男性向けアスレジャーとして市場を開拓したVuoriも、100店舗超を展開し、売上高は10億ドル(約1550億円)を突破している。

「複数の企業が同じ顧客層を狙い、数億ドルから数十億ドル(数百億円から数千億円)規模の売上を上げていれば、業界最大手であっても、少なからず影響を受ける。それが積み重なっていく」とシュワルツは指摘した。

一方、長引くインフレに苦しむ消費者は、定番のレギンスが100ドル(約1万5500円)以上のLululemonよりも、価格の手頃なブランドに目を向けている。こうした動きがLululemonへのプレッシャーになっていると調査会社ミンテルの小売・ECアナリスト、ブリタニー・スタイガーは指摘する。アメリカンイーグル傘下のAerieのようなブランドは、下着中心だった商品構成を、より手頃な価格のアスレジャー分野に広げている。

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翻訳=上田裕資

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