欧州

2025.12.24 12:00

ウクライナ軍、ロシアの「影の船団」に対する作戦を大幅に拡大

ウクライナ海軍の無人水上艇「シーベビー」。2025年10月17日撮影(Vitalii Nosach/Global Images Ukraine via Getty Images)

ウクライナ海軍の無人水上艇「シーベビー」。2025年10月17日撮影(Vitalii Nosach/Global Images Ukraine via Getty Images)

ウクライナ軍は地中海でロシアの「影の船団」に属する石油タンカーを攻撃した。同軍は、ロシア政府が制裁を逃れて原油を輸出するために編成した船団に対する長距離海上作戦を大幅に拡大しているようだ。

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ウクライナ紙キーウ・インディペンデントによると、ウクライナ保安庁(SBU)の無人機(ドローン)が19日、黒海戦域から約1500キロ離れた海域でロシアの影の船団の船舶を攻撃した。ウクライナ当局は、攻撃当時、船舶は空荷だったため、この攻撃による環境への影響はないと説明している。SBUが公開した映像には、短距離ヘキサコプター(訳注:6個の回転翼を持つヘリコプター)型爆撃無人機から投下された弾薬が映っており、攻撃が近隣の船舶から発動されたことを示唆している。

コスト上昇がロシアの石油輸出を圧迫

この攻撃はロシアの戦闘艦隊ではなく、海上物流網を標的とした広範な作戦の一環だ。ウクライナは戦争を支えるロシアの資金源を断つため、制裁回避に利用される同国の影の船団の石油タンカーを標的としている。

リスクの高まりとともに、航海に伴う利益は既に圧迫されている。運航事業者は、チャーター料金の上昇、燃料費や整備費の高騰、荒れた海での航路の延長といった要因に直面しており、こうした要因がロシアの影の船団の収益性を低下させているのだ。

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米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)の分析によると、ロシアの影の船団は1日当たり推定370万バレルの原油を輸送しており、これは同国の海上石油輸出量の約65%に相当する。これにより、ロシアは年間約870億~1000億ドル(約14兆~16兆円)の収入を得ている。ドイツ国際安全保障研究所でロシア情勢を専門とするヤニス・クルゲ博士は、影の船団に対する攻撃の激化によってロシア産原油輸出の主要経路が遮断された場合、ロシアの原油輸出量と国家収入に直接的な影響が及ぶ可能性があるとみている。

SBUは11月下旬、トルコに近い黒海沖で、制裁対象となっているロシア籍船舶「カイロス」号と「ビラト」号を攻撃したと発表した。仏紙ルモンドは、同月下旬にセネガル沖で停泊中のロシア関連の船舶「メルシン」号が複数の「外部爆発」に見舞われたと報じた。捜査当局とロシアの軍事ブロガーは、同船の船舶自動識別装置(AIS)信号が途絶えた後、民間船舶を偽装したウクライナ海軍の無人機による攻撃があった可能性を指摘している。

ロシアの影の船団にサービスを提供する民間事業者にも既に影響が及んでいる。英ロイター通信によると、セネガル近海で起きたメルシン号事件を受け、トルコのベシクタシュ海運グループは安全保障環境が維持不可能だとして、ロシア関連の全ての海運事業を停止すると発表した。

同通信社は今月、ロシアの影の船団の船舶が黒海を航行中にウクライナ製の無人水上艇「シーベビー」による攻撃を受け、深刻な損傷を負ったと報じた。これらの事例は、ウクライナ軍が前線に近い海域だけでなく、ロシア関連の船舶が活動するあらゆる地域で攻撃する準備ができていることを示唆している。

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翻訳・編集=安藤清香

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