経済・社会

2025.12.30 15:15

中国軍機のレーダー照射事件 評価される防衛相と統合幕僚長の発信力

wpevortuna / Adobe Stock

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12月6日に沖縄本島南方の公海上で起きた、中国軍J15戦闘機による航空自衛隊F15戦闘機に対するレーダー照射事件。「極めて危険な行為」と主張する日本と、「日本が挑発してきた」と反論する中国の間で情報戦が続いている。中国が国連や在中国の外交団などに情報発信を続ければ、防衛省・自衛隊も日本の駐在武官を招いての説明会を開いている。

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自衛隊の現役・退官者のほとんどが、11月7日未明の小泉進次郎防衛省による記者会見を評価している。別の自衛隊元幹部は「冷戦時代、自衛隊は情報能力が漏れることへの懸念やエスカレーションを恐れる気持ちから、情報発信に非常に慎重だった」と語る。この元幹部は「中国は20年以上前から三戦(情報戦、心理戦、法理戦)を唱えている。これからは、どんな情報を発信するかが重要で、発信しないという選択肢はない」と語る。

また、日中関係が緊迫するなか、日本の一部で高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁の撤回を求める声が上がるが、外務・防衛両省関係者は「あり得ない選択だ」と一蹴する。「撤回したら、中国は次からそれを既成事実にする」(外務省幹部)からだ。確かに、中国側は一度既成事実を作ると、次は更に前進してくる。自衛隊元幹部は、中国軍機への対領空侵犯措置について「中国軍機は常に1ミリでも日本上空に近づくため、あの手この手で仕掛けてきた。私たちが少しでも後退すると、翌日はその後退した線から更に日本領空に近づこうとした」と証言する。

一方、自衛隊内部で最近、評価が急上昇しているのが小泉進次郎防衛相と内倉浩昭統合幕僚長が連携しての情報発信だという。内倉氏は11日の記者会見でレーダー照射事件について言及した際、約30年前にF15のパイロットとして対領空侵犯措置に従事していた体験談を披露した。そのうえで、離陸すると、「冷静・厳格」とマジックで書き込んだ手袋を見ながら飛行していたと語った。すると、小泉防衛相は16日、Xで内倉氏の手袋を公開した。

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空自元幹部は内倉氏について「元々、政治と運用(作戦)を結びつけるポジションに長くいる人物。だから、発言が政治的にどういう反応を呼ぶのか、よく考えるし、予想ができる能力がある」と語る。空自幹部も「空自内部でも、統幕長の話は、実例や経験を交えて話すからわかりやすいという評判だ」と語る。

情報戦は心理戦でもある。どんなに「ド正論」を吐いても、相手が聞く耳を持たなければ意味がない。相手に興味を持たせる方法はいろいろあるが、具体的なエピソードは効果がある。ましてや、話題になっている対領空侵犯措置のためのスクランブル(緊急発進)経験者の話だ。当然、興味をそそられるだろう。別のF15パイロットにも話を聞いたことがあるが、「スクランブルの合図があったら5分以内に離陸」「捜索用レーダー、火器管制レーダー、敵機によるミサイル発射の順に機内の警報音はうるさく、甲高くなっていく」といった証言を交えた話は説得力がある。

一方、前出の空自元幹部によれば、小泉氏自身も最近、自衛隊関係者の集まりの席で、内倉統幕長と連携して情報発信していることを認めたという。そのうえで、小泉氏は国民に自衛隊を理解してもらうため、わかりやすい言葉や表現でメッセージを出すよう努めているとも語ったという。視察先では、現場の自衛隊員や家族と面会する時間も必ず設けてもらっている。自衛隊内部では小泉氏の発信力について、少なくとも現段階では「聞いていたポエム(調の発言)と違う」「頼もしい」と歓迎する声が上がっている。

中国の在大阪総領事がSNSに投稿した「汚い首をはねてやる」という言葉はインパクトがあるが、相手を説得するどころか反発を買うだけだろう。小泉氏や内倉氏は周辺に対して「エキセントリックにならず、淡々と対応する」とも語っているという。

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文=牧野愛博

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