では、この「先回りの戦略」を、いま、筆者が携わっている「教育業界」に当てはめてみよう。
この業界で、現在、重要な議論になっているのは、「急速に進展するAI革命の結果、どのような人材が求められるようになるか?」という問いであるが、AI革命の初期には、「AI技術者の需要が高まる」といった議論が盛んであった。しかし、それが最近では、「AIに使われる人材ではなく、AIを使いこなせる人材が求められるようになる」という議論になってきている。すなわち、AI革命の進展に伴って、人材市場で注目される人材の条件が、変化してきているのである。
では、AI革命のさらなる進展に伴い、この人材市場の主戦場は、次にどこに向かうのか?
まず、次なる主戦場は、「体験的技能を身につけた人材」に移行する。なぜなら、単なる専門知識や知識資格を身につけただけの人材は、AIに代替されていくからである。そして、この「体験的技能」は、さらに「専門技能」(エキスパート力)と「汎用技能」(プロフェッショナル力)に分けられるが、専門技能の一部はAIに代替されていくため、汎用技能を持つ人材への社会的ニーズが高まっていくだろう。
では、この主戦場は、次に、どこに向かうか。
「成熟した人間関係力を持った人材」になっていく。なぜなら、AIは、細やかで洗練された対人的能力は発揮できないからである。
筆者が専門家として参加していたダボス会議では、AI革命の結果、人間に残る仕事として、1. ホスピタリティ、2. マネジメント、3. クリエイティビティ、の3つを挙げているが、前者2つは、「熟練した人間関係力」が無ければ決して取り組めない、極めて高度な仕事である。
されば、AI時代に活躍する人材とは、「成熟した人間力」を身につけた人材に他ならない。
だが、そうならば、教育に携わる人間は、極めて重要な次の問いに、正面から向きあうことになる。
「では、熟練した人間関係力と成熟した人間力を身につけた人材を、いかにして育てるか?」
実は、この問いは、これまでの偏差値教育と学歴社会が置き去りにしてきた問いに他ならない。
最先端のAI革命は、その古典的で普遍的な問いを、いま新たな次元で、我々に突きつけている。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。元内閣官房参与。全国9000名の経営者が集う田坂塾塾長。著書は『人類の未来を語る』『教養を磨く』など1、国内外150冊余。tasaka@hiroshitasaka.jp


