経済・社会

2026.01.06 14:30

異端の視点と予期せぬサプライズの防御:地経学研究所の一葉知秋

年末年始は、世界の地政学リスク分析が注目される。代表例が米ユーラシアグループの年次レポート「世界10大リスク」だ。創始者イアン・ブレマー氏は、リーダーシップをとる国が不在になるという「Gゼロ」世界の到来を2011年に予測し、国際秩序の変化を鮮明に示した。2025年版では「深まるGゼロ世界の混迷」が1位、「トランプの支配」が2位、3位に「米中決裂」が挙げられた。しかし米中関税戦争は手打ちとなり、むしろ米中の「G2体制」を予感させる動きがある。

24年、筆者が日本で「米中のビッグ・ディールがあるのでは」と述べると専門家たちから一斉に否定された。しかし、彼らの予想に反し米中が関税戦争を終結し、米国が防衛戦略を米本土と南半球にシフトする事態になれば、それは「サプライズ」だろう。予期せぬ事態は国家安全保障に深刻な影響を与え、インテリジェンスの失敗を意味する。

インテリジェンスの本質は危機を防ぐため情報を収集・分析し、政策決定者に予兆を示すことだ。日本でも国家情報局や米CIAをモデルとした「対外情報庁」創設が検討されている。しかし、真珠湾奇襲を予見できなかったインテリジェンスの失敗を受けて統合的分析機関として設立されたCIAは、朝鮮戦争での中国介入、キューバ危機、イラン革命、9.11、イラク大量破壊兵器疑惑、最近のハマス侵攻など重大な「サプライズ」を予測できなかった。組織改革は繰り返されたが、CIA研究の権威ロバート・ジャーヴィスは「失敗は不可避」と警告する。理由は人間の認知的限界と組織文化だ。

「確証バイアス」は既存の仮説に合致する情報を重視し、異なる視点を排除する。インテリジェンス組織は政策決定者に説明可能な証拠を求めるため、どうしても根拠の乏しい仮説は無視されやすい。結果として「常識」とされる分析ばかりが強化され、異端の意見は退けられる。同質性の罠を説いたジョーンズとシルバーザーンの『カサンドラの構築』(2013年 スタンフォード大学出版局)では、組織が排除した「異端者」こそが、実は危機を予見していたと指摘する。彼らは、対象者に寄り添った深い理解や経験に基づく直観から仮説を提示していた。

しかし、そこには組織が重視する「客観的な根拠」が希薄であったため、受け入れられなかったのだ。本書は専門家集団のアイデンティティとコンセンサスが情報の信頼度に結びつく組織文化こそが「常識の壁」をつくると論じる。確度の高い情報に基づく分析への同調圧力が、無意識のうちに異端の視点を「ありえない」と否定する構造を生んでいるのである。

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