暮らし

2026.01.05 15:00

伝統を未来へとつなぐバトンたる宮大工の大鋸:AQ Group 宮沢俊哉

贈り、贈られたモノや体験は、人生を変えるほどの力を持つことがある。企業のトップ、リーダーたちが経験した、モノや体験に介在する特別な思い入れを紹介する。自身の生き方、サクセスストーリーにも影響を及ぼしたであろう「GIFT」の逸話には人間味あふれる姿がある。希薄化も言われる現代の人間関係とは異なる、特別な関係だ。


THE GIFT #31

宮沢俊哉

AQ Group 代表取締役会長

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建築の現場で古くから使用されていた、縦びきののこぎり。
使い込まれた風合いに歴史と汗が感じられる。

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「カンナ社長に、ぜひ使ってほしい」。大工だった私はカンナ社長と呼ばれることが多いが、新木場の材木店の店主もそうだった。彼の手には昭和初期の大鋸。大鋸とは、社寺建築にも使われた伝統的なのこぎりだ。受け取ったときの、その大きさとずっしりとした重みに、私は守り継ぐべきものづくりの精神と、宮大工の匠の心を感じ、不思議と腹の底から熱が湧いてきた。その瞬間、これは過去からの贈り物であると同時に、日本の建築の未来を託されたバトンであると確信したのだ。 

「日本の木造建築は、まだまだ進化できる」。そう考え、私は業界の常識や慣習にとらわれず、木造建築の性能向上を志してきた。その集大成として、前人未踏の純木造ビルの建設に挑むことを決意したのは、この大鋸に背中を押されたからといっても過言ではない。

そしてついに2024年の春に完成したのが、さいたま市の本社ビルだ。日本最古の木造建築である法隆寺の五重塔と高さをほぼ同じくする純木造8階建てを実現した。主要構造部に鉄もコンクリートも使わず、柱もはりもすべてが木。ここには、優れた職人技術と研究者の知見、そしてあの大鋸から受け継いだ思いが宿っているのだ。


みやざわ・としや◎1959年、東京都生まれ。中学校卒業後、埼玉県内の工務店に弟子入りし大工修業を開始。19歳の時、修業先の倒産をきっかけに都興建設を創業。91年にアキュラホーム、23年にAQ Groupに社名変更。入社式でカンナ削りを披露することからカンナ社長と呼ばれる。25年3月より現職。

文=伊藤美玲 イラスト=東海林巨樹

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