リーダーシップ

2025.12.29 08:30

ナデラ米マイクロソフトCEOも実践、ハーバード大教授が説く「勇気を奮い起こす」戦略

ランジェイ・グラティ|ハーバード・ビジネス・スクール教授(Evgenia Eliseeva)

──なぜ勇気はビジネスに多大な影響を及ぼすのでしょうか。

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グラティ:2010年ころに行った私の共同研究がそれを実証している。米国の上場企業4700社を対象に、3回の景気後退期(1980~82年、1990~91年、2000~02年)の企業行動を調べた研究だ。

大半の企業はコスト削減に注力したが、不況後3年たっても、業績が不況前の水準に戻らなかった。一方、9%の企業はコストを削りつつも成長への投資を行い、不況後、より強固な経営体質になった。

──勇敢な行動と、過剰なリスクを取ることの違いは?

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グラティ:勇気と無謀さの間には微妙な境界線がある。勇気とは、不確実性の時代に社運を賭けて何かをやることではない。「小さな一歩」を踏み出し、実験を重ねて学び、失敗し、再び挑戦することだ。

──勇敢なリーダーの具体例を。

グラティ:米マイクロソフトのナデラCEOが好例だ。彼が2014年にCEOに就任したとき、同社は停滞期にあった。そこで、ナデラは会社や企業文化の再構築を目指し、自社のパーパス(目的・存在意義)さえも書き換えようとした。彼の言葉を借りれば、マイクロソフトの「再創業だ」。

こうした変革に取り組むには「勇気」が必要だ。人々は変化を恐れる。ナデラは、自らが勇気を奮い起こすだけでなく、チーム全体が勇気を出せるよう後押しする必要があった。勇気はチームスポーツだ。「孤高の英雄」は神話にすぎない。

新刊で触れたが、大胆な組織の構築を目指すことを「集団的勇気」という。だが実際、成功した大企業はリスクを避ける。

例えば、世界トップの半導体企業だった米インテルはモバイル革命をしり目に、パソコン用半導体チップの生産にこだわった。日本企業も同じだ。かつて世界で業界トップを走っていた数々の日本企業は、いったいどこに行ってしまったのか? 企業の失敗には「勇気」が関係している。

一方、トヨタ自動車のような成功例もある。同社は電気自動車(EV)時代の到来を前に、「クレイジーだ」と言われながらハイブリッド市場に賭けて成功した。

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インタビュー=肥田美佐子 イラストレーション=エフゲニー・バルフェノフ

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