9・11前に装甲車企業を買収、“戦場”の変化を先読みする投資
市場環境を読むタイミングの良さは、カンダースのこれまでの歩みの中で際立っている。2001年9月11日の同時多発テロの1カ月前、彼は米軍の多目的車両「ハンヴィー」向けの装甲製品を手がける企業を5400万ドル(約84億円)で買収していた。その後、イラク戦争とアフガニスタン戦争を通じて軍需が拡大し、この投資は大きな利益を生んだ。2007年には、戦争に対する世論の疲労感が強まる中、防衛関連事業を45億ドル(約7020億円)で売却した。
こうした経験を踏まえて進めてきたCadreの事業の多角化は、現在確かな成果として表れている。同社は2024年に売上高5億6800万ドル(約886億円)、純利益3600万ドル(約56億円)を計上した。2025年の最初の9カ月間の売上高も、前年同期比で13%増加した。その伸びの約60%は原子力安全関連事業によるもので、残りは防弾装備やホルスター、催涙ガスといった従来型製品への需要拡大によるものだ。
既存の中核製品への投資も緩めず、欧州軍向けのメーカーを買収
もっともカンダースは、現在もなお同社の売上高の8割超を占めている中核製品への投資を緩めているわけではない。10月下旬、Cadreは防弾ベストやシールド、防弾装備などを特殊作戦部隊や海外の軍隊に供給するメーカー、TYR Tacticalを1億7500万ドル(約273億円)で買収すると発表した。その3週間後には、軍事訓練中の爆風への曝露を測定するための爆風センサーおよびソフトウエアに関する5000万ドル(約78億円)規模の契約を米国防総省から獲得した。
カンダースはフォーブスに対し、Cadreが海外政府向けの個人用防護装備システムを幅広く手がけていることを強調した。TYR Tacticalの買収によって、同社は新たにデンマーク、オランダ、スウェーデンの軍への装備供給を担うことになったという。「欧州各国が防衛の即応性や能力への支出を拡大する中で、当社はその流れの恩恵を受ける立場にある」と彼は語る。
政権交代に関わらず継続が見込まれる、法執行分野への連邦投資
Cadreは、連邦機関や法執行機関に対する政府支出の拡大からも追い風を受けている。ただしカンダースは、こうした動きがドナルド・トランプ大統領のもとで進んだ国防費や移民対策関連の支出拡大と直接結びつくものではないと述べている。トランプの大統領選勝利の2日前に行われた、Cadreの2024年11月期決算説明会で彼は、選挙結果にかかわらず事業環境に「大きな変化は想定していない」と述べていた。「法執行の分野については、共和党か民主党かといった立場の違いに関係なく、多くの教訓が得られてきた。その結果、これら分野には今後も継続して投資していく必要があると認識している」とカンダースは語った。
フォーブスとの電話インタビューでカンダースは、Cadreが受注している連邦政府向け契約の詳細について踏み込んだ説明を避けた。「当社は、あらゆる面で米国政府を支援している」と彼は語った。
実際、Cadreの売上高の3分の2超は、連邦、州、地方政府との契約によるものだ。2025年の最初の9カ月間における連邦政府向け契約の売上高は、前年同期比で約20%増の7400万ドル(約115億円)に達した。11月の決算説明会で、Cadreの社長を務めるブラッド・ウィリアムズは、政府機関に対する「大規模な連邦投資」を、同社にとって追い風となる市場動向に挙げていた。
カンダースは、Cadre以外でもアウトドア用品メーカーのClarus Corpの16%の株式を保有している。また、ジェフ・クーンズや草間彌生の作品を含む大規模なアートコレクションに加え、アパレルブランドのMountain KhakisやCarve Designsにも投資している。
個人として防衛企業Fisicaを立ち上げ、ミサイル防衛システム『ゴールデン・ドーム』の一翼を担う
そして、Cadreを除く最大の投資先が、米軍向けにアンテナや電磁システム、各種シミュレーターを製造する防衛関連製品メーカーのFisicaだ。カンダースは2024年6月、航空宇宙・防衛大手L3Harris Technologiesから合計3社を総額2億ドル(約312億円)で個人として買収し、それらを統合してFisicaを立ち上げた。4月には、航空電子機器やバッテリーシステムを手がけるSpace Vectorを非公表の金額で買収した。
「我々は、F-15を含む航空機向けのレーダーシステムを製造している。ドローンを含むほかのプラットフォーム向けのシステムも手がけている。地上配備型のシステムもあり、その意味で我々は『ゴールデン・ドーム』の一部を担っている」とカンダースは、トランプ政権が米国の防衛のために開発を進めている多層型ミサイル防衛システムに触れつつフォーブスに説明した。「我々はまた、ドローンやミサイル、宇宙機向けのバッテリーシステムも製造している。Fisicaは、国防総省の中枢と直接つながる、本格的な防衛事業だ。米国の同盟国とも多くの取引を行っている」と彼は続けた。


