宇宙

2025.12.23 11:00

「みちびき5号機」ブラジル上空で大気圏再突入か、H3ロケットに発生した事象全容とその影響

(c)内閣府

H3の第2段では、燃料である液体水素をエンジンの熱で気化させ、その水素ガスを水素タンクに戻すことで加圧する。つまり今回の水素タンクの圧力低下は、タンクやエンジンだけでなく、システム内のあらゆる経路で発生し得る。同システムの各部位にはセンサーが設けられており、その作動状況は通信が途切れるまで地上局に届いている。当面はそのデータを解析することがJAXAにおける最優先事項となるだろう。

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測位精度は4cm

「みちびき」の初号機は2010年に打ち上げられ、2018年以降は4機体制が整えられた。2025年2月には5号機よりも先に「みちびき6号機」が打ち上げられ、現時点では計5機が運用されている。

「みちびき5号機」のイメージイラスト (c)内閣府
「みちびき5号機」のイメージイラスト (c)内閣府

米国のGPS衛星の信号のみでの測位精度は10m程度だが、「みちびき」の信号で補強することにより、その精度は現時点で5m程度まで改善している。さらに、4機体制以降に提供されている「測位補強サービス」(無料)を利用すれば、公表値で6cm、実測値で4cmという、圧倒的に高精度な測位サービスを享受できる。この精度は各国のGNSS(全球測位衛星システム)と比較しても突出して高い。

各国の全球測位衛星システム(GNSS)の状況
各国の全球測位衛星システム(GNSS)の状況

今回失われた5号機は、こうした測位精度をさらに確実にするはずだった。さらに7機体制が整えば、米国のGPSに頼ることなく、「みちびき」だけで測位サービスの提供が可能となるはずだった。しかし、5号機が失われたいま、この7機体制の実現にはさらに時間を要することになる。

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政府は2023年、宇宙基本計画を改定し、「みちびき」を11機体制に拡張する方針を打ち出した。11機体制を完成するには、新型機4機の配備を2030年代後期に完了するとともに、5号機の代替機を打ち上げ、さらには耐用年数を超えた既存機の入れ替えも必要となる。こうした「みちびき」の複雑な運用スケジュールがどのような工程で進められることになるのか。「みちびき」の運用主体である内閣府、H3の打ち上げを管轄する文部科学省、実行機関であるJAXAの判断と動向に、今後も引き続き注目が集まりそうだ。

編集=安井克至

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