また、H3の第2段と「みちびき5号機」が分離したかも判然としなかった。一般的なロケットと同様、H3における衛星分離は第2段に搭載されたオンボード・コンピュータによってフルオートで実行される。そのため地上との通信が途絶えても、ロケットに搭載された制御システムが条件を満たしたと判断すれば、「みちびき5号機」は切り離される。
しかし、今回は想定と異なるシーケンスを経たため、衛星分離のトリガーの役目を果たす2回目の燃焼停止の信号が制御システムに正しく伝達されず、分離のタイマーがスタートしなかった可能性があった。また、たとえ「みちびき5号機」が分離していたとしても、2回目のエンジン燃焼がキャンセルされた状態では初速度が足りず、予定よりかなり低い遠地点にしか到達できていないはずだった。
Observations from Chile suggest that Japan's H3 survived the first orbit and reentered at second perigee, circa 0400 UTC, somewhere over S America along the track shown here pic.twitter.com/q2bDY0UkSi
— Jonathan McDowell (@planet4589) December 22, 2025
そうした状況のなかマクドウェル氏は、アメリカ宇宙軍の軌道上監視システム(SSN)の情報をもとにH3の軌道情報をX上で公開。未確認とされつつ種子島から軌跡を描くその物体は、当初は近地点109km、遠地点441km、軌道傾斜角30.1度の軌道上にあり、「カタログ85420」としてエルセット(Element Set:軌道要素セット)と呼ばれる軌道情報が公開された。結果的にその宇宙機はブラジル南部のパラナ州上空で大気圏に再突入したと予想され、目撃情報もあるという。その軌道情報が1件であることから、「みちびき5号機」とH3の第2段は分離しなかった可能性が高い。
第2段に何が起こったのか?
打ち上げ当日に行われたJAXAの会見によると、今回の事案の原因としては、第2段に搭載された液体水素燃料タンク内の圧力低下が疑われている。打ち上げ後、第1段エンジン(LE-9)が燃焼中の3分20秒後あたりから、テレメトリーがそれを示唆したという。つまり、第1段ロケットが切り離される以前から、第2段の水素タンクにトラブルの兆候が表れていた。
その後、第1段が切り離され、第2段エンジン(LE-5B-3)が1回目の燃焼を開始した。しかし、その燃焼は予定より25秒間も長く、471秒間にわたって継続された。これは水素タンク内の圧力が低下したことで、推進剤が適正な状態でエンジンに圧送されず、その結果としてエンジンが本来の推力を発揮できなかったことに起因すると思われる。その状況において制御システムは、予定より長く第2段エンジンを燃焼することで推力ロスを補いつつ、目標の初速度に達しようと判断したのだろう。


