映画

2025.12.25 15:15

Netflixはハリウッドの主役になるか 「創作」か「利益」か、ワーナー争奪戦後の未来

Photo by Mario Tama/Getty Images

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ハリウッドの勢力図が、大きく塗り替わろうとしている。

世界最大の動画配信企業Netflixが、ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)の買収に踏み切ったのだ。だがこの一手に待ったをかけるように、パラマウント・スカイダンスが敵対的TOBを宣言。舞台裏では、独占規制、政治、そしてメディア支配をめぐる思惑が複雑に絡み合う。

この争奪戦は、単なる企業買収ではない。多様な作品が生まれる自由と、ビジネス的な合理性の追求を誰がどの判断軸で両立させていくのか。エンターテインメントの未来を左右する局面でもある。


Netflixが提示した「827億ドル」という一手

2025年12月5日、売却を模索していたワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)は、買収に名乗りを上げていた3社の中から、最高額となる827億ドルを提示したNetflixと譲渡契約を締結した。入札に参加したのは、CBS放送などを有するパラマウント・スカイダンス、NBCやユニバーサル・スタジオを擁するコムキャスト、そして最も高額なオファーを出したNetflixの3社だ。

Netflixは近年、2026年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)放映権を独占取得するなど、映像コンテンツ企業から「グローバル・メディア企業」へと変貌を遂げつつある。

今回の買収が成立すれば、ワーナー・ブラザーズの映画資産に加え、世界的に高い評価を持つHBO、そしてストリーミングサービス「HBO Max」も傘下に収めることになる。現在HBO Maxを独占配給しているU-Nextと、株主でワーナー・ブラザーズやHBOとの関係構築を期待していたTBSとテレビ東京の危惧も少なくない。

もっとも、HBO作品はライセンス契約によって一定期間保護されているため、仮にHBOが転売された場合でも、U-NEXTから突発的に配信が消える可能性は低いと見られている。

なぜ「放送事業」は買わなかったのか

注目すべきは、CNNやディスカバリー・チャンネルといった放送系事業が、今回の買収対象から外されている点だ。

電波を利用する放送事業の譲渡には、米連邦通信委員会(FCC)の許可が必要となる。加えて、買収規模を考えれば、独占禁止法の観点から米連邦取引委員会(FTC)の審査も避けられない。

Netflixはあえて放送事業を切り離すことで、政治・規制リスクを最小化し、買収成立の確率を高める戦略を取ったと見られる。

それでも、この取引がFTCの審査対象になることは確実だ。Netflix共同CEOのテッド・サランドスは政界への根回しも進めてきたが、トランプ大統領は「独占化が進まないことを確認した上で慎重に対応すべき」と述べ、明確な支持は表明していない。

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文=北谷賢司

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