映画

2025.12.25 15:15

Netflixはハリウッドの主役になるか 「創作」か「利益」か、ワーナー争奪戦後の未来

Photo by Mario Tama/Getty Images

最大の壁はEU規制

仮に米国内で承認が得られたとしても、最大の関門は欧州だ。EUはメディア・エンターテインメント分野における独占に厳しく、すでに市場占有率が50%を超えるNetflixがHBO Maxを取り込むことは、「過度なメディア集中」と判断される可能性が高い。

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EU加盟国間での合意形成も容易ではなく、場合によっては各国判断に委ねられる可能性もある。完全買収の成立には、なお多くの課題が残されている。

ただし、今回の契約には、Netflix側が契約を不履行とした場合は58億ドル、WBD側が不履行となった場合は28億ドルを支払う違約金条項が盛り込まれている。両社が簡単に引き返せない「覚悟の契約」であることは間違いない。

敵対的TOBという「逆転カード」

ところが、事態はここで終わらなかった。

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競合入札に敗れたパラマウント・スカイダンスは12月8日、WBDの全資産を対象とした敵対的TOBを宣言する。提示額は1株30ドルの全額現金。Netflixが提示した27.75ドル(うち一部はNetflix株)を上回る条件だ。

しかも対象には、Netflixが買収から外したCNNやディスカバリーといった放送事業も含まれている。ラリー・エリソン、そして息子デイビッド・エリソンが、パラマウントとワーナーという二大スタジオを傘下に収め、CBSとCNNという二つの巨大報道機関を掌握すれば、世界有数のメディア帝国が誕生する。

政治とメディアが交差する舞台裏

この動きの背後には、政治の影もちらつく。トランプ大統領に批判的だったCBSは、エリソン家の影響下に入って以降、論調が軟化したと指摘されている。トランプが強く敵視するCNNも同様に支配下に置きたいと考えていても不思議ではない。

さらに、パラマウント・スカイダンスの買収資金にはサウジアラビア政府系ファンドが関与するとされる。中東との関係を自らのビジネスにも活用してきた大統領の思惑が、この買収劇と無縁だと考える方が不自然だろう。

「統合」が奪うものは何か

業界内では、巨大化が進むスタジオ統合への懸念も根強い。

ワーナー・ブラザーズ元上席副社長のロバート・ハンメル氏は、「FOXがディズニーに吸収され、このままワーナーもパラマウントに取り込まれれば、かつて6社体制だったメジャー・スタジオがさらに減る。結果として、大作を製作する機会が減少し、クリエイターたちが大規模な予算でハリウッドらしい作品を撮るチャンスも少なくなる」と警鐘を鳴らす。

元HBO幹部で国際エミー賞財団会長のフレッド・コーヘン氏も、「スタジオやペイテレビ、サブスクサービスは、複数の企業が競い合ってきたからこそ、文化芸術性に優れた作品が数多く生まれてきた。巨額の借り入れ資金によるM&Aが進みすぎれば、利益優先の判断が強まり、安易に配信数や視聴数が見込める作品が、新規性よりも優先されかねない」と指摘する。

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文=北谷賢司

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