米国の世帯は一世代前には、夫婦の片方の稼ぎだけで家族を養い、家を買い、車を1台か2台所持つことができた。
現在はというと、夫婦がともに高所得者であっても、マイホームの購入は難しくなっている。
金融情報会社バンクレートの最近のリポートによれば、年収8万ドル(約1260万円)の世帯では、現在市場に出ている住宅の75%は高過ぎて手が届かないものになっている。米国で家を買うには世帯年収が最低でも11万3000ドル(約1780万円)必要で、一部の大都市圏ではその額は20万ドル(約3100万円)近くに上がる。
また、米国の持ち家率は6年ぶりの低さに下がっており、来年は一段の低下が見込まれる。家計はあらゆる方向から圧迫されている。
ここで筆者が言いたいのは、いわゆる「アフォーダビリティー(価格の手ごろさ)危機」は、たんに住宅をはじめとする資産の価格の問題ではないということだ。問題はむしろ通貨の価値にある。
ドルは1世紀にわたる弱気相場にある
1915年以降の米ドルの購買力と金(ゴールド)の価格を比べたチャートを見ると、米ドルがこの間に購買力を95%超失う一方、金価格は爆発的に上昇し、とくに財政や経済が逼迫した時期に急騰している。
政治家や評論家は、強欲な企業や非効率なサプライチェーン(供給網)に問題があると主張するかもしれない。だが、真相はこうだ。政府が際限なく財政赤字を垂れ流し、それをどこからともなく生み出した不換紙幣で賄えば、その法定通貨そのものが問題の根源になる。
始まりは1971年、リチャード・ニクソン米大統領がドル紙幣と金の兌換を停止した時にさかのぼる。前の記事でも述べたように、米国はあの日、財政規律をかなぐり捨て、変動相場制に舵を切ったのだった。
ドルと金のつながりが断ち切られると、政府支出は爆発的に増えた。米国の政府債務は国内総生産(GDP)比で40%未満だったのが、いまでは120%をゆうに超える水準に膨れ上がっている。
要するに、通貨が現実から切り離されると、ドルで値づけされているさまざまなものが、だんだんと手が届きにくくなるのだ。
こうして話は住宅に戻ってくる。



