経済・社会

2025.12.23 12:15

「核を保有すべき」、米中朝が説得力を持たせる官邸幹部の発言

Grispb / Adobe Stock

同盟国である米国のコメントも、日本に不安を抱かせる。官邸幹部の発言が出てきたのは、核を持つ中朝ロ3カ国に囲まれているという状況だけではなく、米国の退潮に大きな原因がある。トランプ米政権は12月に発表した国家安全保障戦略で北朝鮮の核問題に触れなかった。別の専門家は「トランプ政権は、北朝鮮は米国を核攻撃しないだろうと考えているようだ」と語る。同政権内には、北朝鮮が日本や韓国を核攻撃した場合、米国の都市を危険にさらしてまで北朝鮮に対して報復攻撃するのは現実的ではない、と主張する人も少なくない。国務省はコメントで、米国の核の傘を含む拡大抑止力の提供にも言及したが、言葉と行動がかみ合っていない印象を受ける。日中対立でも、トランプ政権は中立の立場を貫こうとしているように見える。

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3カ国のコメントは官邸幹部が挙げた「国際環境の悪化」という懸念を解消するものとは言えないだろう。官邸幹部は「最終的に頼れるのは自分たちだ」と語ったとされる。この懸念を解消するためには、中国は日中対立の緩和なり、増強する一方の核開発について核軍縮に応じるなりの姿勢が必要だ。北朝鮮は核の先制不使用を明言すべきだし、国際原子力機関(IAEA)の査察にも応じるべきだろう。過去の様々な核廃絶交渉で散々各国をだましてきた以上、北朝鮮は核廃絶交渉に応じる責任がある。米国も改めて拡大抑止力の信用を高めるための具体的な措置や取り組みを示す必要がある。

また、トランプ米政権の拡大抑止力に疑問が生じている以上、一部にある「非核三原則」のうち、「持ち込ませず」を排除した「非核二原則」への変更も意味をなさないだろう。トランプ政権は緊急時にあっても、米国の核兵器の日本への持ち込みを実施しないと思われるからだ。

もちろん、だから結論は「日本の核武装」一択だとも思わない。核保有は、自衛のためであれば憲法上認められるかもしれないが、核不拡散条約(NPT)に明確に違反する。強行すれば、様々な国際的な制裁に遭う可能性がある。運搬手段をどうするのか、核実験場をどこにするのか、狭い国土で果たして核兵器を安全に貯蔵できるのか、など具体的な難問が山ほどある。唯一の戦争被爆国として、核廃絶・軍縮論者の精神的支柱だった立場を自らうち捨てれば、国内外から大きな失望を買うだろう。非核三原則を堅持することは、日本に対する核兵器の先制使用を思いとどまらせる抑止力にもつながる。

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しかし、核武装という意見をタブー視することは許されないだろう。非核三原則を維持するためにも、核武装することのメリットとデメリットを真摯に議論する必要があるからだ。議論を封じれば、非核三原則の足腰も弱くなる。

外務省元幹部は「この機会に徹底的に議論を戦わせればいい」と語る。自衛隊元幹部も「核武装を主張する人を危険人物だと決めつける風潮は慎まなければならない」と語った。

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文=牧野愛博

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