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2026.01.01 10:15

『敬天愛人』の地が今、宇宙にフルベットする理由——空を見上げ続けてきた鹿児島の宇宙観

「敬天愛人」と「オーバービュー・エフェクト」が符合する

インタビューの後、筆者は県庁から鹿児島中央駅までの道のりをゆっくりと歩いてみた。その途中には「西郷隆盛誕生地」もあった。その場所でしばらく、1827年12月7日生まれの西郷隆盛がまだ「小吉」と名乗っていた幼少期を想像してみた。

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その後、鹿児島中央駅前に立つモニュメント「若き薩摩の群像」に向けてまた歩き始めながら、筆者は「西郷隆盛が信条とした敬天愛人」と「宇宙飛行士が体験するというオーバービュー・エフェクト」の類似性について考えていた。

実は「日本人最多の宇宙飛行5回、日本人最長の宇宙滞在504日18時間35分を経験」という偉業を成している若田光一も鹿児島との縁が深い。彼は埼玉県さいたま市で生まれているが、父親は鹿児島県旧大隅町(現曽於市)の出身である。そのため、子どものころから幾度も鹿児島を訪れている。また、九州大学に入学して福岡に住んでいた時代には、ロケットの打ち上げを見学するために鹿児島に来て、幾度も空を見上げている。

敬天愛人は、西郷隆盛の思想および行動の核心とされる言葉だ。敬天とは、「天=宇宙の理、自然の摂理、道徳的な規範、普遍的な正義」を敬うこと。愛人とは、すべての人々を分け隔てなく慈しみ、愛すること。

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オーバービュー・エフェクトは、宇宙飛行士が宇宙空間から地球を俯瞰したときに生じる心理的・哲学的な意識の変化を指す言葉だ。宇宙飛行士は宇宙の広大さや地球の美しさに直面したときに畏敬の念を覚え、より普遍的で本質的な問い(人類の未来や平和など)に意識が向き、地球全体や生命全体との精神的なつながりを深く感じるようになるという。

この「敬天愛人」と「オーバービュー・エフェクト」は、思想の根本が同じであるように思えた。

どれくらい歩いたか——。ふと気づくと、目の前を幼児とその母親が手をつないで歩いていた。

「ママは、いつも優しいね。ありがとう」

「そう? ママこそ、いつもありがとうと思ってるよ」

親子が慈しみ合う会話の断片が、後ろを歩く筆者の耳にまで届いてきた。筆者は、空を見上げていた。空と宇宙の境目(宇宙の始まりを示す高度の基準であるカーマン・ライン)まで、地上から100kmだという。

そのとき、幼児だった西郷隆盛、同じく幼児だった若田光一、そして目の前の幼児が時空を超えてつながった。この空は、西郷どんも若田さんも見上げてきた空だ。その先の、それほど遠くはない距離に今日も宇宙がある。

目の前を歩く、この慈愛に包まれた子どもは、いずれ宇宙で暮らすことになるのかもしれない。

親子と宇宙の間を隔てるものは何もなかった。私たちは、宇宙の一部である。

きたむら・たかし◎1981年、広島県生まれ。東京大学大学院公共政策学国際公共政策専攻修了。2007年、経済産業省に入省。資源エネルギー庁、商務・サービスグループ、通商政策局、在インドネシア大使館などにおいて、様々な役職を歴任。資源エネルギー庁原子力政策課東京電力福島第1原子力発電所事故廃炉・汚染水・処理水対策官を経て24年6月、鹿児島県に出向して商工労働水産部長に就任。

text & edited by Kiyoto Kuniryo | photographs by Yuka Kariya(Photo House KOUKI)

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