実際、『Cephalopod Cognition』に掲載された研究で詳述されているように、タコのニューロンのうち実に約3分の2が、8本ある腕に集中している(腕には脳の2倍以上のニューロンが分布している)。それぞれの腕には、独自の小型処理センターが搭載されていて、以下のようなことが可能だ。
・腕を協調させた動き
・触感による探索
・物体表面の味を見る
・中央にある脳とは完全に独立した、腕ごとの判断を行う
タコが驚くほどの身体の協調が可能なのは、前段で挙げた非中央集権的な構造を持つ神経系統をもつことによるところが大きい。タコは、自らの腕を用いて、別々の作業を同時進行で進めながら、複雑な操作を行うことができる。
一方で、タコの身体の中心部分にある本来の脳は、食道の周囲をとり囲むドーナツ型の構造の中に収められている。脳には数十の脳葉(瘤状の領域)があるが、それぞれが異なり、特定の機能を持っている。記憶や学習、感覚統合などに関わる部位だ。
特筆すべきは、1匹のタコには約5億個のニューロンが存在しているということだ。これは、小型の哺乳類に匹敵する数だ。
5. 個体ごとに異なる個性や意思決定のスタイルがある
前述の研究論文を通じて主張されている論点として、タコの個体は1つとしてまったく同じ行動様式を示すものがない、ということがある。ゆえに、10匹のタコにまったく同じ課題を与えた場合、ほぼ確実に10通りの異なる戦略が観察されるだろう。
2022年に『Journal of Experimental Biology』に掲載されたチチュウカイマダコに関する研究では、こうした個体による「行動タイプ(個性に相当するもの)」の違いを記述している。大胆ですぐに行動を起こすタイプのタコは、完全に見慣れない物体にも、恐れ知らずの好奇心で腕を伸ばす。一方、ためらいを示すタイプのタコもいて、こちらは安全だと確信するまでは物体に触れようとしない。だが、さらに興味深いのは、こうしたそれぞれの個体が持つ行動パターンについては、タコの個体の多くで、時間が経過しても一貫性が見られることだ。
個体によってパターンに違いがあるというのは重要なポイントだ。なぜなら、タコの行動が本能によって厳密にプログラムされたものではないことを示しているからだ。彼らは、個体ごとに独自の好みや傾向、さらには気質さえ持ち合わせているように見える──まるで、私たち人間と同じように。


