北米

2025.12.27 14:00

「米国産のコメと生産者」を守れ、トランプに「関税引き上げ」を直談判した精米会社CEO

2025年12月8日、ワシントンD.C.のホワイトハウス内閣会議室で、ドナルド・トランプ米大統領と対話をする4Sisters RiceのCEOのメリル・ケネディ(Photo by Alex Wong/Getty Images)

生産コストの高騰と輸入量の倍増で、生産者の経営はかつてない危機に

しかし、家族が運営する農場と、床面積約3700平方メートルの精米工場の収益は、ここ最近厳しい状況に置かれている。ケネディの事業と取引先の契約生産者は、この5年間で肥料、燃料、エネルギーなどのコストが2倍、あるいはそれ以上に膨らむ事態に耐えてきた。米国農業連盟は今年、米国のコメ生産者が1エーカー当たり364ドル(約5万7000円)の損失を計上すると予測している。

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コメ生産者が苦境に立たされる一方で、米国への米の輸入量は過去10年で倍増した。2015年以降、国内の米市場に占める輸入品の割合は15%から35%へと拡大している。

「国内市場を失い続ける状況が、10年以上も続いている。しかも海外市場では、自由貿易協定が守られていない」とケネディは語る。「世界貿易機関(WTO)のルールに反する形で生産者への過剰な補助金を行い、不自然に安い輸出価格を可能にしている国が、ほかにも数多くある」と彼女は指摘する。

「これは本当にひどい状況だ」とケネディは言う。

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彼女はまた、家族が10年以上にわたって関係を築いてきたアーカンソー州では、生産者の自殺が増えていると付け加えた。米疾病対策センター(CDC)によると、アーカンソー州では、農業、林業、漁業、狩猟といった職業に従事する人々の自殺率が、全米でも高い水準にある。

基準価格の引き上げが決まるも、支援開始までの持ちこたえられるか懸念

7月4日に署名された「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル」に盛り込まれた、米の基準価格を21%引き上げる措置により、米国のコメ生産者は一定の恩恵を受ける見通しだ。米は、主要農産物の中で最も高い引き上げ率を確保した。しかしケネディは、実際に支援が始まるのは来年11月であり、そこまで待てない生産者もいると指摘する。

「生産者が生き残れるようにしなければならない。彼らがいなければ、私たちの事業は成り立たない。生産者が事業を続けられるよう、確実に支えなければならない」と彼女は語る。

父が始めた精米事業を継承し、姉妹と共に新たな小売ブランドを育てる

ケネディの父エルトンは1964年、一族で初めて農業に参入し、1980年代に起きた農業業界の大規模な金融危機も乗り越えてきた。2012年には、自ら生産した米の販売をより主体的にコントロールするため、精米工場と米の乾燥事業を立ち上げた。

妻のアンと4人の娘とともに、2016年に家族初の米ブランドを立ち上げたが、立ち上がりは順調とは言えなかった。大学時代に夏の間、父のアシスタントとして働いていたメリル・ケネディは、その後5年間にわたって事業を学んだうえで、2017年に精米事業を引き継いだ。

彼女の姉たちは、それ以前から長年にわたり家業に関わってきた。60歳のパッチェズはマーケティングを担当し、顧客向けのレシピ開発を主導。54歳のフェリシティはブランドアンバサダーとして各地を回り、家業の物語を伝えてきた。54歳のシャンテルは家族の農場を運営するとともに、事業のサステナビリティ責任者を務めている。

南部の伝統を掲げて刷新を図り、大手チェーンでの取り扱いを拡大

2020年、姉妹は小売事業の刷新を決め、米国南部のガルフコースト(メキシコ湾岸)地域に根付く稲作の伝統を前面に打ち出した、家族が主導する米ブランドを立ち上げた。4Sistersの米はまず、ウォルマートとクローガーの店頭に並んだ。その後、クローガーはハリス・ティーター、ラルフズ、ディリアンズへと展開を広げ、パブリックスとH-E-Bは同ブランドのジャスミンライスを全米規模で取り扱うようになった。ケネディは、政府によるさらなる支援と、ホワイトハウスで注目を集めたことが、家族の事業を後押しすると同時に、「米国のコメ生産者が置かれている苦境」を広く伝えることにつながることを期待している。また、4Sistersの供給先を、レストランやファストカジュアルチェーン、業務用フードサービス分野に拡大したい考えだ。「私たちはまだ駆け出しだが、今後の拡大を目指している」と彼女は語る。

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翻訳=上田裕資

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