「感動こそが価値の源泉である」として、人の心や感情といった不安定な要素を、企業はどうマネジメントしていくべきなのか。ともすると、手法の属人化に陥りはしないか——。カクシンCEOの田尻望は、感動を科学的に量産するための「仕組み化」も説く。前編記事スペックの先にあるエンドユーザーの物語を語れ—「感動」から価値提供を見直すべき理由の後編。
——前編では「付加価値の最小単位は感動である」というお話を伺いました。しかし、人の感情を動かすというのは、個人のセンスや才能に依存する属人化しやすい領域ではないでしょうか。
田尻 望(以下、田尻):一般的にはそう思われていますが、私たちは「感動は仕組み化できる」と考えています。仕組み化し、再現性をもたせなければビジネスとしてスケールしません。たったひとりのお客様を幸せにすることができたなら、そのプロセスを分解し、構造化する。そのアプローチが重要です。
加えて、お客様が口にする顕在的なニーズの背後には、必ず言葉にされていない本質的な欲求があります。いわば、「ニーズの裏のニーズ」と、顧客にとっての理想の状態とのギャップを埋めたときに感動が生まれるのです。
ニーズには「裏表」がある
——「ニーズの裏のニーズ」とは、例えばどのようなものですか?
田尻:あるスポーツ用品の卸売会社のケースで説明しましょう。卸売会社の営業における顧客への価値の「理想」とは、単にメーカーから仕入れた商品を小売店に納品すること、ではありません。
小売店に対して「どうすればもっとエンドユーザーが買いたくなるか」という売り方や見せ方を提案し、顧客企業がより成功できるようにコンサルティングができる状態になることです。
卸売の営業担当が、特定の店舗における成功事例を分析し、「なぜ顧客はかったのか」をノウハウとして体系化できれば、別の店舗に売上そして粗利益アップの方法を横展開できる可能性も生まれます。そこまでできてはじめて、小売店からは「ありがとう、次も君のおかげでうまくいったよ。これからも君のところから仕入れたい」と感謝される。つまり、心が動かせるようになる。
「この商品を導入すると、店舗にどんな変化が起きるのか」「成功事例をどう横展開するのか」——。感動の仕組み化には、そもそも優秀な営業マンが頭のなかで描いている「AからBへ、つまり顧客をより良い状態へ変化させるためのプロセス」や「商談のストーリー」を誰でも使える型として残すという考え方が必要です。
そしてそれは、BtoCであれば、付加価値の源泉は「感動」となり、それは「感情ステージの変化」にあたります。課題がある状態では、どの感情ステージなのか。課題が解決したときにはどの感情ステージに引き上がっているのか。その感情ステージの変化こそが、感動として仕組み化できていきます。エンドユーザーにとって心が昂り、感動を覚えている状態を言語化・仕組み化することで、どのようなことをストーリー・ナラティブテリングするべきかがも見えてきます。
BtoBであれば「価値」の発生しうるポイントは、生産性、財務、CSR、コスト、リスク、商品付加価値の向上といった要素を捉えることで可能になると考えています。そしてBtoBの中にも担当者や意思決定者という個人がいて、この「価値」が個人の「感動」にどのように影響を与えるかを仕組み化することによって、要素を整理できます。それぞれにおいて理想形を考えていくことで、そこからの逆算で理論化や構造化を進めることができるわけです。



