ビジネス

2025.12.25 18:00

感動は横展開できるか。カクシン流、感動の構造化・仕組み化・再現性のヒント

仕組み化のための理想は「現場を体験しておくこと」である

田尻:逆説的ではありますが、こうした理論化・構造化のためには、「理想形を体験し、実体験しておくこと」が重要になります。

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例えば、整理整頓が行き届いていない汚い部屋にずっと住んでいる人は、それが当たり前になってしまい、何が汚いのか、不便なのかに気づけません。しかし、仮に一流ホテルの空間を体験している人なら、居心地がよく、動線に配慮された部屋というのがわかります。だからこそ、「今の部屋や案内の流れはおかしい。こうすれば快適にすごせる」という違和感に気づけます。

ビジネスの現場も同様です。私はかつて大手自動車メーカーの工場を見学しましたが、そこは「広くすべて見渡せるようにする」「腰から動いてしまうような場所に部品を作業場所に置かない」といった厳格なルールがあり、異常があれば即座にわかる仕組みが徹底されていました。物がうず高く積まれ、死角だらけの工場とはまるで環境が異なる。

この理想形とそうでない形の差異を知っているからこそ、違和感がすぐにわかるのです。だから、例えば「死角となっている部分に仕掛り在庫が溜まっていっているので、利益が出ないんです」などの指摘がすぐにできる。

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——「感動の仕組み化」によって再現性を高めるという意味では、今まさにAIが進化し、多くの業務を代替し始めています。この時代の変化をどう捉えていますか?

田尻:価値主義、付加価値の観点から言えば、極論ですけれど、価値を生み出すこと以外はどうでもいい。だから、計算やデータ処理といった正解のある作業はAIに任せればいいと考えています。

しかし、ここで多くの経営者が間違いを犯しがちです。絶対にやってはいけないのが、AIを使うと時間が半分ですむから、提供価格も半分にするということ。効率化できたからといって安易に価格を下げてしまっては、日本はいつまで経っても豊かになりません。むしろ、「価格は据え置きですが、時間が半分になったので今後は倍の納品が可能です」とか「空いた時間でもっと付加価値の高いサービスが提供できます」と言うべきなんです。

また、AIは確からしいアウトプットを出してくれるツールです。そのアウトプットに対して、「なぜその判断に至ったのか」「なぜ、そのアウトプットが役に立つのか」という背景を読み解き、相手にとっての意味を与え、責任をとるのは人間の役割です。

商談中に相手表情が少し曇ったなと思った時。見逃さず、「少し気にされたところがありましたか?」と一歩踏み込んで問いかけられるのは、人間です。AIに今できるのは、「満足」までの対応であり、それを超える「感動」には今は行き着いていません。こうしたAIには不可能な心の機微に触れる対話があってはじめて、相手は心から納得し、信頼してくれます。その思いやりが、これからの時代に人間だけが発揮できる付加価値となります。

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text by Michi Sugawara | photographs by Shuji Goto

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