拡大する監視対象と行動分析、導入プロセスにおける合意形成の欠如
それでも、教育機関がこうした製品の導入を止めることはない。テネシー大学チャタヌーガ校で安全担当ディレクターを務めるブレット・フックスは、既存の監視カメラに武器やいじめ、転倒者、徘徊の検知が可能だとされるVoltAI(ボルトAI)を導入した。このツールは映像ストリーム1系統あたり年額365ドル(約6万円)で提供されている。フックスは性能を試すため、同僚にカメラの前でふざけて取っ組み合いをさせたところ、AIはそれを正しく検知したという。この結果を受け、フックスは2025年初めに同ツールを本格導入した。
VoltAIは、学内で倒れていたホームレスの発見にも役立ち、その後この人物はシェルターに案内されたとフックスは語る。銃撃に関する虚偽の通報が入った際にも、VoltAIが危険な事態が起きていないことを確認する助けになったという。「本当に何かが起きていれば、通報より前にアラートが出ていたはずだ」とフックスは語る。ただし、このシステムも「まだ実際の事件で真価を試されたことはない」と、彼は付け加えた。
図書館やフィットネスセンターへのカメラ設置、教員組合による異議申し立て
学校へのAI搭載カメラの導入が進む中で、その監視の影響を最も受ける立場にある生徒、保護者、教員が、その意思決定の場に参加できているとは限らない。そう明かしたのは、地元の教員組合であるビバリーヒルズ教育協会の会長で、同学区中学校に勤務する教員キャサリン・ウォーレンだ。彼女によると、ビバリーヒルズ学区が図書館やフィットネスセンターなどにカメラを設置したことを受け、教員組合としてこの秋正式な異議申し立てを行ったという。
学区では教室内へのカメラ設置は認められていないものの、キャンパス内の他の場所では設置が可能とされている。これについてウォーレンは、「これらの場所も授業や指導が行われる空間であり、従来の教室と同様に、プライバシーや労働契約上の配慮がなされるべきだと組合として問題提起した」と説明した。
ビバリーヒルズ学区の広報担当コルビー・ギラーディアンは、学区側がカメラの設置場所を組合に事前に共有すること、また「合理的にプライバシーが期待される場所」にはカメラを設置しないことで合意したと述べた。ただし学区の判断では、その範囲に図書館やフィットネスセンターは含まれないという。
ウォーレンはまた、コネティカット州に拠点を置くAI企業Vaidio(バイディオ)による顔認証技術が、2025年の卒業式で使用されていたことについて、事前に説明を受けていなかったと語り、自身の画像が生体認証データベースに登録されたのかどうかも知らされていなかったという。同様に、卒業生のニコール・ゴルバチェワも、卒業式の場で顔認証が試験的に運用されていたことを後になって知ったと語っている。
これについてギラーディアンは、今後顔認証技術を本格的に展開する場合には、より踏み込んだ説明と協議の場を設ける考えだと述べた。現在この技術の使用は学区内の15台のカメラに限定されており、対象は高校1校、中学校1校、小学校2校にとどまっている。また運用に用いているのは、「限られた対象だけを登録した、内部検証用のリスト」に限られているという。
学校は消費者プライバシー法(CCPA)の適用除外
学校は、保護者・生徒・教職員が顔認証システムに登録されていることを通知する法的義務を負っていない。カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)は、企業に対して生体認証データを収集していることを本人に通知するよう求めているが、公立学校はこの規定の適用除外となっている。
ビバリーヒルズ学区で安全・警備部門の責任者を務めるショーン・オコナーは、カメラが「常にデータを取得し、人や身体の動きを評価している」ことを認めたうえで、「私たちはプライバシーを非常に重視している」と語った。「この情報を外部と共有することはない。警察からの召喚状や捜索令状に基づき、特定の映像を提出する法的義務が生じた場合でも、事件に関与していない人物の顔はすべてぼかす」とオコナーは説明した。
VoltAIとZeroEyesはいずれも、自社の技術は個人の身元を識別するものではなく、物体や行動を検知するのみであり、「プライバシー上の脅威には当たらない」と主張している。


