ビジネス

2025.12.25 18:00

スペックの先にあるエンドユーザーの物語を語れ—「感動」から価値提供を見直すべき理由

現状から新しい価値創出を見据える場合に、まず頭をよぎるのがテクノロジーの活用だ。それらを通じてなんらかの見える化や効率化がすぐさま図られがちだが、「我々が提供している価値とはなにか」と、原点に立ち返るのも有効だろう。「価値主義」を掲げ、企業の高収益化や構造改革を次々と成功させている経営ソリューションカンパニー「カクシン」CEOの田尻望は、人間特有の「感情」や「感動」こそが価値の源泉にあると看破する。その真意はどこにあるのか。

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——田尻さんは常々「付加価値の最小単位は感動である」と提唱されています。一般的にビジネスの現場で使われる「付加価値」という言葉とは、定義が異なるように感じます。

田尻 望(以下、田尻): 多くの経営者やビジネスパーソンが考える「付加価値」は、会計上の定義に縛られています。つまり、売上から原価を引いた残り(粗利)が付加価値という捉え方です。しかし、これはあくまでビジネスを行った結果として手元に残った「結果値」に過ぎません。

「付加価値をつくれ」と号令をかけながら、多くの経営者様が見ているのは結果としてでた会計上の数字ばかりです。では、本当の付加価値は、最初はどこに生まれるのか? それは企業と企業の間ではなく、その先(の先)にいる消費者、つまりエンドユーザーのなかにしか生まれないものなのです。そして、お客様がお金を払うのは、商品やサービスを通じて心が動いたとき、つまりは「感動の対価」としてだと言えると考えます。だからこそ、私たちは「価値の最小単位は感動である」と定義しています。私たちの事業がBtoBだとしても、その連鎖はBtoBto…toCとしてつながっていき、このC(最終エンドユーザー)が得る価値から逆算されてバリューチェーンができ、私たちの仕事がどう貢献できたかが決まってくるのです。

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この「感動」には、大きく分けて3つの種類があります。1つ目は、マイナスの感情をプラスに引き上げるもの。2つ目は、今の良い感情を維持するもの。そして3つ目は、マイナスになることを防ぐ、いわばリスク回避です。

わかりやすい例として、トマトの話をしましょう。多くの生産者は「糖度が高くて甘い」といった機能や性能を売りにしがちです。しかし、それだけでは単なる甘いトマトとして扱われ、原価を基準とした価格競争に巻き込まれてしまいます。

視点をエンドユーザーの感動に変えると、トマトを買う人は単に甘い野菜が欲しいわけではありません。子どもにトマトを食べさせたい、食卓を楽しい雰囲気で彩りたいという親がいるとしますね。その場合は、「野菜嫌いの子どもが、このトマトなら食べてくれる」「その笑顔を見て、食卓が明るくなる」という感動を体験できることに価値を覚えてくれるはずです。その価値が購買者に伝わるとどうでしょうか。そのトマトを高い安いだけで判断しなくなり、より多くのお金を払うようになります。

つまり、トマトという「モノ」ではなく、食卓の円満さという「コト(そして感動)」が価値の源泉になっている。ここから逆算してバリューチェーンを組み直せるかどうか。エンドユーザーの感動をつくることが、ひいては企業の株価にも直結していくのです。私たちが支援する企業でも、経営者の方がこの感覚を理解しているところは伸びると考えています。

田尻 望 カクシン 代表取締役CEO
田尻 望 カクシン 代表取締役CEO
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text by Michi Sugawara | photographs by Shuji Goto

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