感動の原動力は「妻のビンタ」だった
——そもそも田尻さんご自身は、なぜそこまで「人の感情」を重視されるようになったのでしょうか?
田尻:前職のキーエンスでは、私自身「数字がすべて」の世界で働いていました。数字で人を判断し、実力こそが正義だと思っていたのです。しかし、あるとき「リーダーに選ばれる」というワークショップに参加した際、誰一人として私をリーダーには選びませんでした。営業成績などの数字では結果を出していたのに、誰も私についてきたいと思わなかったのです。そのとき、はじめて「人は数字や論理だけでは動かない。感情や感動で動くんだ」と気づかされました。
また、私は26歳で独立・起業しましたが、半年で失敗し、27歳のときに自己破産を経験しました。当時、うなだれつづけている私を見かねた妻に、泣きながらビンタされたんです。
「あなたが失敗しても、私は自分で働いてでもこの子を育てていくんやからね! あんたもしっかりしいや!」と。
強烈な一撃でしたが、頰の痛み以上に「この人は私を見捨てず、失敗しても絆は切れないんだ」という深い安堵と感動が胸に響いたんです。それ以来、営業で断られることもまったく怖くなくなりました。妻のビンタに比べれば、ビジネスの失敗による心の痛みなんて微々たるものですから。
改めて、人を支えて突き動かすのは誰かとのつながりであり、そこから生まれる「感情」なのだと骨身に沁みて理解した瞬間でした。だからこそ私はビジネスにおいても「感情」や「感動」を重視し、それを仕組みとして社会に実装したいと考えています。
後編「感動は横展開できるか。カクシン流、感動の構造化・仕組み化のヒント」では、感動の仕組み化を探る。
たじり・のぞむ◎カクシン 代表取締役CEO。京都市出身。大阪大学基礎工学部卒業後、キーエンスにてコンサルティングエンジニアとして国内外の重要顧客を担当。2017年に独立しカクシンを創業、高収益と高賃金を同時に実現する独自メソッドを開発。売上2兆円超の大企業から中堅企業まで規模を問わず成果を創出し、中堅IT企業を4年で年商45億円から88億円へ成長させた実績を持つ。近年はエンジニアとコンサルタント双方の知見を活かし、AIアバターを活用した営業トレーニングシステムなど生成AI活用の仕組みを提唱。Forbes JAPANでは「世界の96賢人」に選出。著書に10万部超のベストセラー『付加価値のつくりかた』(かんき出版)、『構造が成果を創る』(中央経済社)など。


