私たちは日常生活の中で、利他性や自己犠牲が称賛される場面をよく目にする。すべてを投げ打ってでも助けてくれる友人、毎晩遅くまで残業する従業員、そして一貫して相手のために自分の欲求を抑え込むパートナーなどである。常に「連絡できる存在」であることは、美徳として理解されやすい。一方で、利己的であることは、まるで履歴書の消えないマイナス点のように感じられがちだ。
しかし、称賛されることの多いこうしたプロソーシャル(向社会的)な特性には、悪い側面もある。慢性的な自己犠牲は、とりわけ自分を守る境界線を設けられていない場合、燃え尽き、恨み、情緒的な消耗、人間関係の亀裂につながりやすい。自分のエネルギーを補充せずに与え続けると、その代償はいずれ、口調や忍耐力、活力、あるいは自己感覚全体に表れてくる。
とくに負荷の高い人間関係や状況では、自分を優先することによって、自己犠牲がもたらしたダメージを修復し、さらなる境界線の侵害を防ぐことができる。もちろん、他者が重要でなくなるという意味ではない。自分自身も同じように重要であり、あなたの幸福が、関わるすべての関係性を形作っているということだ。
本稿では、健全な利己性がなぜ皆にとって良いのかを示す、科学的根拠に裏付けられた3つの理由を紹介しよう。
1.感情的な余力を高める
過度な利他主義における最も一般的な罠の1つは、感情の枯渇である。睡眠、休息、感情調整といった自分の基本的な欲求を慢性的に無視すると、他者のためにつくすための力は大きく減ってしまう。
感情労働や燃え尽きに関する研究は、感情的エネルギーを補充しない人ほど、苛立ち、疲労、共感力の低下を経験しやすいことを明確に示している。Journal of Occupational Health Psychologyに掲載された2011年の研究では、 他人の感情に対応するために自分自身の感情を制御する必要のある労働、いわゆる「 エモーショナルレイバー(感情労働者)」は、燃え尽き症候群に陥るケースが有意に高く、感情的に他者に向き合う余力が低いことが示された。
この意味でのセルフケアは、関係者全員の境界線を守るための、一種の利己性である。よく引用される自己防衛の例が、飛行機での酸素マスクのルールだ。緊急時に自分が窒息していては、誰も助けられない。しかし、みずからの感情の貯水池が満たされていれば、忍耐強く、思いやりを持ち、助けを必要とする人に手を差しのべることができるのだ。
さらに、セルフケアは自律神経系の調整にも役立つ。十分に休息が取れ、心身が安定し、満たされている人ほど、より冷静に対立関係に対応でき、より多くの思いやりを示し、人間関係により向き合いやすくなる。



