現在発売中のForbes JAPAN 12月24日発売号「2026年総予測 新時代がわかる『100の問い』」特集は、毎年恒例の未来予測号。今年の表紙は、今注目を集めるAIスタートアップ企業のアンソロピック、代表取締役社長のダニエラ・アモディ。そのほか、2025年のノーベル経済学賞受賞者、ジョエル・モキイア米ノースウェスタン大学教授をはじめ、ピーター・ターチン教授、ジョセフ・ヒース教授、ダニエル・ヴァルデンストロム教授など世界的な有識者へのインタビューを掲載。庵野秀明×山崎貴の豪華対談や天才科学者として話題の木村建次郎教授と「地面師たち」の小説家・新庄耕の対談も。30歳以下が選んだ「2026年 注目すべき100人」まで、Forbes JAPANの編集による「多様な未来の見方」を提示する。
私たちが生きている時代は比類のない不平等の時代——そのナラティブは真実なのか。Forbes JAPAN 12月24日発売号「2026年総予測 新時代がわかる『100の問い』」特集内で、ノーベル経済学賞受賞者のダロン・アセモグルやフィリップ・アギヨンも注目する最新の格差研究の著者インタビューを行った。
ダニエル・ヴェルデンストロムの新著『資産格差の経済史 持ち家と年金が平等を生んだ』(みすず書房、立木勝訳・原題『Richer and More Equal』)は、20世紀後半に富の不平等が歴史的な高水準へと押し上げられている、というトマ・ピケティの2013年の世界的ベストセラー『21世紀の資本』が広めた旧来のナラティブに対抗し、豊富な新データで富と不平等に関する新たな歴史を提示している。本当に格差は広がっているのか。また、新しい時代に再分配はどうあるべきか。話を聞いた。
──富と不平等について、あなたの研究で明らかになったことは何か。
私はこの問いに関する研究を20年以上続けてきた。明確にしておきたいのは、私のデータは多くの国を対象に構成され、トマ・ピケティ氏のデータとも連携している。私たちはパリで同僚だったし、20年来の知り合いだ。私たちが使用するデータは、基本的には同じものだと考えている。重要な相違点のひとつは、彼が20世紀に日本だけではなく西欧諸国で「平等性が高まった」と主張する理由が「富裕層の規模が縮小したため」と述べている点だ。つまり戦争による資本の破壊や規制の導入、そして資本主義を抑制する税制が作用したのだと。彼の見解では、資本主義は格差拡大、独占化、富裕層の富増大を促す力であり、戦争による工場や所有権の破壊といった外生的ショックが資本に生じたこと、さらに富裕層の富を再分配し、蓄積を抑制する資本課税を導入することにより、我々は資本を制御し、投資や資産形成のインセンティブを奪った、と。
しかし同じデータを見ると、それは真実ではない。確かに資本への打撃はあったが、富裕層はそれほど貧しくならなかった。代わりに起こったのは、より多くの普通の労働者や中産階級の人々が豊かになったことだ。つまり、経済は成長していた。産業革命や技術革新が、国によって時期が多少異なるものの、より多くの人々を巻き込んでいったのだ。
これは、民主主義のおかげでもあった。民主化が進むにつれ、多くの人々に教育が行きわたり、人々の能力は向上し、熟練した。実質賃金が増加し、職場環境も改善された。政治家が労働者や一般市民の声を聞くようになったからだ。こうして労働法が整備され、多くの人にとってより良い労働環境が整い始めた。歴史上はじめて、普通の労働者層が貯蓄を始められるようになった。彼らが最初に貯蓄した目的は自宅購入であり、住宅所有率が向上した。人々の寿命が延び始めると、老後のための貯蓄が必要になった。これが底辺層を押し上げ、資産所有を拡大させた。
より多くの人が財産を持つように
上位層、中間層、底辺層の資産増加を比較すると、不平等を縮小させ、資産の平準化をもたらしたのは、実は底辺層の向上だったことがわかった。つまり、一般市民が経済に組み込まれたのだ。これは成功した実業家や富裕層が依然存在するにもかかわらず起こった現象だ。過去20年、30年、40年の間に、ビリオネアや超富裕層が存在していたことを考慮に入れても、一般市民も年金基金や住宅所有において、はるかに豊かになったのだ。



