ビジネス

2025.12.29 13:15

CBD市場の敵はTHCではなく「ゼロリスク幻想」

Anastasiia S / Adobe Stock

Anastasiia S / Adobe Stock

こんにちは。ワンインチの柴田です。

advertisement

2025年11月、都内で販売されていたあるCBD関連製品からΔ9-THCが残留限度値を超えて検出されたとして、東京都が行政的な発表を行い、厚生労働省も注意喚起を出しました。

この件を受けて、我々事業者や消費者としてこの問題をどう捉えるべきか。ここが今後の市場の成否を分ける重要な焦点なのではないかと考え、今回書かせていただきます。

THC検出の発表自体は公衆衛生という観点からは止められない

法改正後、残留限度値を超えるΔ9-THCが検出されたケースは、福岡県のグミ等も含め、いくつか行政発表が出てきました。

advertisement

今回の東京都の件でも、東京都の買上調査で1製品から限度値超過が確認された旨が公表され、厚労省も同製品について「麻薬に該当する疑いがある」として、販売・購入・摂取をしないよう注意喚起しています。

そして、現時点で同製品による健康被害は確認されていないとも明記されています。

ここで、業界として一つ冷静に押さえておくべきポイントがあります。

それは、「恣意性(意図的な混入)」の有無と、「行政発表が出るかどうか」は必ずしもイコールではないという点です。

薬物事犯は基本的に恣意性が重要な要素になります。

しかし、都道府県の薬務課、厚労省の監視指導麻薬対策や麻薬取締部、警察など、複数の機関がそれぞれの責務と判断で動きます。

業界団体が一定の運用ルールを陳情し、国側に不文律があったとしても、現場が完全に一律運用になるとは限りません。公衆衛生を鑑みて判断した場合発表するかどうかはケースバイケースになりますし、あくまでその管轄による判断という形に異を唱えられないからです。
つまり、どれだけきちんと管理していたとしても、万が一検出されれば行政的な発表ルートに乗る可能性は現実にあるということです。

今回のケースはそれを改めて突きつけた出来事だったと思います。

ゼロリスク幻想が最大の経営リスク

では、我々のような既存のCBD企業や、これからCBDに参入しようとしている企業は、この問題にどう向き合えばいいのでしょうか。

ここからは印象論に落ちないよう、できるだけ数字と構造で語ります。

ところで世の中にはリコールの案件が年間に何件あると皆さんは思いますか?

消費者庁が公表している食品表示法に基づく自主回収の届出(公開)は、制度運用開始の2021年6月1日から2025年3月末までで6319件。

内訳を見るとアレルゲン関連が最多で、次に期限表示が続きます。

さらに注目すべき点として、健康被害があったケースは101件とされています。

単純平均でざっくり感覚を出すなら、

6319件 ÷ 1400日(2021/6/1〜2025/3/31)→ 1日あたり約4.5件ペース。

 “毎日どこかで回収が起きている”と言って差し支えない規模感です。でもそのすべてが騒動になっているわけではない。

また、広告・表示の世界では、刑事罰より“是正指導/行政対応”が圧倒的に多い構造です。

景品表示法の運用状況では、措置命令より指導の件数がはるかに多く、外部から寄せられる情報提供はさらに桁違いに多いです。

健康増進法の観点でも、ネット監視に基づく改善指導が多数行われています。

つまり何が言いたいかというと、

薬機法、景表法、アレルゲン、期限表示など、「処罰ではなく、発表や是正で終わる事例」は構造的に大量にあるということです。品質ガバナンスの現場は元々「そういう世界」で回っているといっても過言ではありません。

次ページ > 麻薬事犯関連との重みの違い

文=柴田耕佑

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事