ビジネス

2025.12.29 13:15

CBD市場の敵はTHCではなく「ゼロリスク幻想」

Anastasiia S / Adobe Stock

麻薬事犯関連との重みの違い

ただし、私のこの主張にもロジック的なほころびはあります。

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食品や化粧品の法律、広告表示の法律と、麻薬に関する法律では、その法的重さが異なるという点です。

ここを雑に「同じリコール問題ですよ」と100%等号で結ぶと、企業の法務/リスク部門は引っかかるでしょう。

2024年12月施行の成分規制で、製品中のΔ9-THCには残留限度値が設定され、これを超える製品は麻薬に該当すると整理されています。

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区分は油脂/粉末、⽔溶液、その他でそれぞれ異なる残留限度値が置かれました。

つまり、

 “健康被害がないから処罰対象ではない”

 “1ppm規制で少し超えたTHCが出てもただちに健康被害はない”

という毒性リスクの感覚的説明は理解できる。

しかし規制の根拠は公衆衛生だけでなく麻薬規制の政策判断でもある以上、法的概念としての重みは軽くできない。

ではどう解釈すればいいか。

私はこう整理するのが最も実務的で、かつ大企業を説得しやすいと思います。

薬機法違反、景表法違反、アレルゲン、期限表示などの「処罰ではなく発表や是正で終わる事例」とTHC検出は、同列(同じ種類の事故)ではないが、同格(同じレベルの運用で扱うべき事故)です。

THC検出は法的には重大。

しかし運用としては、一般の回収インシデントと同じく

1.迅速な市場隔離
2.原因究明
3.範囲特定(当該製品/店舗/ロット)
4.再発防止

の標準手順で収束させるべき。ここに麻薬規制特有の当局連携と情報開示を上乗せする。

それが、現実的な危機対応設計だと思います。

より法務向けに言い換えるなら、

 「恣意性がないこと、事前・事後の検査体制、迅速な回収と再発防止が確認されれば、当局対応は悪質事案とは区別して整理される余地が大きい。よって企業の危機対応は“薬物事件化”を前提に過剰硬直するより、標準の品質インシデント手順に法規要素を上乗せする形が合理的」

ということです。

CBDを検討している企業に伝えたいこと

CBDは“怖いから触らない”で済む産業ではありません。そして、ゼロリスク幻想が最大の経営リスクです。

食品表示の自主回収は制度開始以来すでに6000件超公表され、毎日どこかで起きているのが実態です。表示や広告の是正指導も、行政の通常運転として大量に存在します。

だからこそ私は、

THC検出を“特別扱いして過剰に怯える”のではなく、 “法的重みを理解したうえで、危機の作法は標準化する”という文化を、業界と大企業の間に作っていきたい。

おわりに

今回は、東京都の発表をきっかけに、我々がこの種の行政発表とどう向き合うべきかを書きました。

市場に必要なのは、過剰な恐怖ではなく、「きちんと作る」・「きちんと測る」・「万が一の型を用意する」という成熟した品質ガバナンスです。

文=柴田耕佑

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