DelightXの独自モデル——「共同創業」という関わり方
DelightXは従来のアクセラレーターとは一線を画す仕組みを持つ。約900万円(6万ドル)の支援金と5%のエクイティという形で、会社設立前の段階から起業家と共に歩む。
多くのアクセラレーターが会社設立後、トラクション(実績)がある段階で参画するのに対し、DelightXはそれよりもはるかに手前の段階でリスクを取る。
参加者にはデラウェア法人の設立を推奨する。現地のエンジェル投資家やVCは、慣れ親しんだデラウェア法人であれば小切手を切りやすいが、日本の株式会社への投資には二の足を踏むからだ。
プログラムの真価は、ベイエリアに築かれた濃密なネットワークにある。現地で10年以上戦い続けてきた日本人起業家たちがメンターとして参画し、週次でフィードバックを提供する。事業領域の選定から投資家へのピッチまで、「現地でしか分からない」知見を惜しみなく共有する。将来的にはY CombinatorやAndreessen Horowitzといったトップティアのアクセラレーター・VCとの連携も視野に入れている。
第1期の挑戦者たち——20歳から30代まで
第1期では14名の起業家がベイエリアでのプログラムに参加した。ヘルスケアデータサービス、AIファウンデーションモデル向けの音声データ提供(Scale AIの音声版とも言える事業)、ティーンエイジャー向けクローズドSNS、ロボティクスなど、領域は多岐にわたる。
特筆すべきは参加者の多様性だ。20歳でティーン向けSNSに挑む起業家は、自らアメリカの高校生700人にプロダクトを見せてフィードバックを集め、改善を重ねている。九州工業大学で人工衛星の設計から打ち上げまで一貫して手がけた経験を持つ若者は、現在ロボティクス領域でシリコンバレーに挑戦中だ。
「研究室にいる人たちに、起業って面白いかもと思ってもらえると嬉しい。自分がやりたいことに向き合って、生き生きしている。その姿がいいんですよね」
本プログラムでは、南場氏がManaging Partnerとして選考・設計段階から関与し、採択後も起業家に対して継続的なメンタリングを行う。南場氏本人も日本とシリコンバレーを行き来しながら現地の視点を共有し、単なる助言にとどまらず、事業立ち上げフェーズから伴走支援を行う点が大きな特徴だ。
「出る杭を引っ張りあげる」——日本再起動への処方箋
2022年、経団連は「スタートアップ躍進ビジョン」を発表し、同年11月には政府も5カ年計画を打ち出した。起業家数を10倍に、ユニコーンも10倍に。しかし3年が経過した今、どちらも2倍にすら達していないのが現実だ。
「もう一回巻き返さなきゃダメだ。クロスボーダーでお金が渡ってくるか、人が海を越えて行くか。そうしないと本当に開かれたエコシステムはできない。どんどん差が開いていく」
DelightXが求めるのは、「世界で勝負したい」というシンプルな意志を持つ人材だ。ある領域では世界トップの知見を持ちながら、スタートアップとは縁遠かった人。強烈なオブセッション(執着)を持ちながら、その活かし方を知らなかった人。ビジネスアイディアと創業者の強い原体験だけで応募が可能。
「出過ぎた杭は打たれない。出かかっている杭を引っ張り上げたいんです」
年齢制限は18歳以上。上限はない。「セカンドチャレンジだっていいじゃないですか。何回試合やってもいい」
日本人もGoogleを作れるその証明は、ベイエリアに飛び込む起業家たちの挑戦にかかっている。第2期の募集が始まった今、次なる「出る杭」を世界は待っている。


