美容・ダイエットサポートサプリといったウェルネス市場で存在感を高め、創業わずか9年で年商125億円規模へと成長を遂げたビタブリッドジャパン。躍進をけん引してきたのは、生活者一人ひとりの感情を起点に価値を設計する「N=1主義」と、生活者との接点を育むD2Cモデルだ。
データを駆使した効率化が進む時代に、人の“熱量”を中心に置くことを大切にしている同社がなぜ成長を続けるのか。その答えは、ビタブリッドジャパン代表取締役CEOである大塚博史が創業以来一貫して掲げる哲学にあった。
広告代理店でキャリアをスタートした大塚が早くから魅了されたのは、ダイレクトマーケティングの“数字がすべて見える世界”だった。「感覚」に頼ったビジネス判断ではなく、CPA(顧客獲得単価)やLTV(顧客生涯価値)といった指標で語るフェアな環境が、ビジネスの基点となったと振り返る。
広告代理店では、 大手健康食品通販事業を担当。黎明期から事業に伴走し、売上500億円規模への成長に貢献した。その後、より大きな挑戦を求め中国でのダイレクトマーケティング事業立ち上げに携わるも、規制や市場の急変、自身の実力不足により想定していた拡大には至らなかったという。
この経験からコンサルタントという立場の限界を痛感し、「日本を盛り上げる事業を自らの手で興したい」と2014年に起業を決意した。
「最初の1~2年はCPAも計画値になかなか届かず、赤字が続いていました。そんな中でも、SNSやWeb広告で得られた顧客の反応からわずかな兆しをつかみ、PDCAによる地道な改善を積み上げ、3年目にようやく黒字の軌道に乗せることができました」
“感覚的な売り方”ではなく、愚直な検証の積み重ね──大塚の価値基盤にはフェアなマーケティング意識、そして商品への愛情があるのだ。
こうした姿勢は、20年以上にわたりヘルスケア・通販の現場に向き合ってきた経験から自然と培われたもの。長く業界に身を置くなかで、戦略や技術の進化に加え、法規制が強化されていくプロセスも間近に見てきた。
多くの事業者にとって負担ともなり得る規制の流れについても、「生活者が安心して通販商品を選べる環境づくりは、業界が成長していくうえで欠かせない」と、むしろ前向きだ。不適切な表現や行き過ぎた訴求は、一社にとどまらず業界全体の信用を揺るがす。だからこそ、業界が長く信頼されるためのルールづくりを積極的に受け止め、健全な市場形成に貢献したいというスタンスを明確にしている。
「N=1のストーリー」が事業をつくる
“生活者を起点にする視点”は同社の商品づくりにも貫かれている。ビタブリッドジャパンの価値創造の中心にあるのは、徹底した “N=1主義”だ。
「この商品は100人中20人しか買わないかもしれない。でも、その20人にとっては“これが私にとっては一番合ってる”と思えるものを作る。その最適マッチングを目指したい」
機能を“叫ぶ”だけではなく、生活者の本音につながるコミュニケーションを大事にする─そういった大塚の考えを体現する商材がビタブリッドジャパンにはそろう。一商品で年間約100億円売上げをもつ糖質コントロールサプリ「ターミナリアファースト」は、同社の代表製品だ。
大塚はかつて健康とダイエットのため食事制限に取り組んだ経験があり、体重は激減したものの「楽しみが奪われた生活」に強い違和感を覚えた。「食べたい。でも健康でいたい」その矛盾こそが、多くの生活者が抱える“リアルな課題”であると気づき、開発の起点となった。
広告宣伝では食べる楽しみを全面に押し出すなど、生活者の感情に寄り添った表現を採用している。25年現在、「ターミナリアファースト」は後発ながら、ダイエットサポートサプリ市場において3年連続年間売上でNo.1を達成※1した。
※1:出典:『H・Bフーズマーケティング便覧 2025 No.1 機能志向食品編』(富士経済)
ユーザーとの接点となるD2Cでも、通販事業でよく見られる「定期縛り」を採用しないビジネスモデルに大塚の思想は反映されている。
売上の短期回収よりも、5年・10年と信頼を積み重ねる関係を築いていくことを前提にビジネスを設計。定量・定性調査や日々のコミュニケーションを通じて顧客の声を改善に反映し、特に長期利用者の声を重視しているのだ。

社員・パートナー企業と「共感」でつながる組織づくり
“N=1主義”を通じた、一人ひとりの声と向き合うという哲学は組織運営にも通底しており、自社社員の意識やパートナーとの関係まで、関係者全員が誇れる製品であるか、その姿勢を大切にする。
数字が可視化されるダイレクトマーケティングの領域では、商品の設計からコミュニケーション、販売後の改善サイクルまで、現場の判断が最も早く、最も正確だ。そこで社員一人ひとりに責任と権限を大きく委ね、自らPDCAを回す自律組織をつくりあげている。
商品開発においては、大塚が自身の経験から「ターミナリアファースト」を設計したように、社員一人ひとりが自分の人生経験に基づいた“物語”から商品アイデアを生み出す文化が根づく。
「商品開発はいわゆる“花形”ともいわれますが、弊社では誰でもできます。もし開発者が80人いれば、80通りの人生がある。それぞれが自分のドラマをもとに商品を作れば、80人分のアイデアが生まれ、幅広い価値提案ができる。だから全員が開発担当であり、全員が自分の人生から企画していい、というスタイルにしています」
商品発案にはノルマを設けていない。ノルマ型の商品づくりは開発者の創造性を奪い、生活者の実感から遠ざかるという考えからだ。
パートナー企業との関係でも、まずは互いにプロダクトを理解し、実際に使い、自分ごととして思いを語れるかどうかを重視。「自分では商品を使わないが、広告は運用する」という構図は否定し、“感情の共有が成立するかどうか”を重視した関係性を構築する。
「数字」の先へ。“非効率”を武器に打つ次の一手
創業わずか9年で年商125億円規模へと成長したビタブリッドジャパンだが、大塚はその数字を「目的」に据えることはない。
D2Cを軸にしてきた同社は近年、ドラッグストアでも拡大し、コンビニエンスストアでの展開も検討中。「100人中100人が買う商品」ではなく「100人中20人に深く刺さる商品」を目指す同社にとって、ドラッグストアやコンビニは新たな「出会いの場」となる。
店頭だからこその“出会いと体験”が生まれたなら、引き続き店頭で買い続ける顧客もいれば、一部の顧客はECのほうにも広がる。そんな“体験起点からの循環”を設計しているのだ。
「店頭は、あくまで店頭だからこそ生まれる“別の入口“。弊社の利益は最重要ではありません。手に取って感じていただける体験が広がることのほうが大事です。当社の一番の価値は商品です。どれだけ広告で伝え続けることよりも、一度の体験が最も人の心に残るものだと信じています。一見非効率に見えるかもしれませんが、商品価値に自信があれば、結果的に体験が競争優位になります」
広告視点で見ればすべてが驚くほど逆張りの戦略だが、大塚は次のようにも語る。
「とはいえ、ロマンだけでやっているわけでもありません。人の想いから出発しつつ、ダイレクトマーケティングは徹底的に科学している。感情とロジックの両輪が弊社の強みです。5年後、10年後に『最大よりも、最適な価値を多く生み出す企業』になっていたい、というのが現在のビジョンですね」
“人間の営み”と徹底したマーケティングメソッド。この両輪が社員のボトムアップを可能にし、顧客と長く続く関係を築き、日常の延長線上に新たな体験を創造する。ビタブリッドジャパンの歩みは静かな熱量とともに、この先も着実に進んでいくだろう。
おおつか・ひろし◎ビタブリッドジャパン代表取締役CEO。広告代理店で大手健康食品通販事業の黎明期から携わり、500億円規模への事業成長に伴走するなど、D2C・通販領域で20年以上の実績を持つ。ビタブリッドジャパンでは創業3年目で黒字化、9年目で年商125億円を達成。



