経営・戦略

2025.12.30 13:30

JX金属 林陽一、ENEOS独立で見せた覚悟と再成長論

林 陽一|JX金属 代表取締役社長 社長執行役員

林 陽一|JX金属 代表取締役社長 社長執行役員

2025年10月25日発売のForbes JAPAN12月号第一特集は、「新いい会社ランキング2025」特集。上場企業を対象にした毎年恒例の大企業特集では、今年は「ステークホルダー資本主義ランキング」と、新たに「ESGフィット度ランキング」の2つを掲載している。ステークホルダー資本主義ランキングは、「地球(自然資本)」「従業員」「サプライヤー・地域」「株主」「顧客・消費者」の5つのカテゴリーで解析。ESGフィット度ランキングでは、サステナビリティ情報開示の義務化が進むなか、ESGの取り組みを自社の「稼ぐ力」につなげている企業を導き出した。同号では2つのランキング、IPOランキング上位の11企業の経営者インタビューを一挙掲載している。

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2025年3月に東証プライム市場に上場し、順調に株価と時価総額を伸ばしているJX金属。 ENEOSホールディングスから「独り立ち」した非鉄金属メーカーの「勝利のシナリオ」とは。


2025年3月19日、JX金属が東証プライム上場を果たした。初値時価総額は7826億円で、今年上半期で最大規模の大型上場となった。経営環境が不透明でIPO(新規株式公開)のベストタイミングとは言いがたかったが、社長の林陽一はこう振り返る。 

「我々としては一刻も早い上場を望んでいました。上場後はすべて自力でやらなければいけない。だからこそ早く上場して力を磨きたかった」

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自力を強調したのは、JX金属が上場前はENEOSホールディングスの100%子会社だったからだ。林が入社した1988年当時、JX金属は日本鉱業の金属部門だった。92年に日鉱金属となり、98年に東証一部上場。再編を繰り返し、2010年にJXホールディングス(現・ENEOSホールディングス)の傘下に入って上場廃止に。今回の独立で、15年ぶりに株式市場に戻ってきた。

なぜ巨大企業グループから独立するのか。発端は19年に発表した長期ビジョンにある。40年の長期ターゲットを策定するにあたり、中堅社員を集めて議論を開始した。JX金属は資源開発、製錬・リサイクル、半導体・情報通信材料の3つの領域で事業を展開している。このうち何を中心に据えるかを、次世代を担う社員たちと話し合った。

チームの結論は、半導体・情報通信材料をコアにすること。経営企画部長として議論をサポートしていた林は、「わが意を得たり」の思いだったという。 

「世界で新しく開発できる鉱山は、もはや高コストの難所しか残っていません。挑戦するには大きな財力が必要で、成長の中心にするのは難しい。一方、半導体・情報通信材料は人的資本や技術力の勝負で、市場の成長も期待できる。可能性があるのはここだと私も考えていました」

長期ターゲットが見えてくると、オーナーシップも議論の対象になる。

「上流の資源開発は装置産業型で、ENEOSの事業と近いところがありますが、下流は技術立脚型です。そこを中心にするなら両社の間に意志決定のくい違いが起きる可能性がある。それがお互いの成長を損ねる要因になるなら、独立の道を選んだほうがいいという話になりました」

そごが大きくなってから自分たちを切り離すより、早いうちに動いたほうが前向きな経営判断になる。ENEOS側も、この考え方に対して早い段階で理解を示してくれた。

問題は社内だ。独立するなら上場に耐えうるガバナンス体制を整えたり、ファンドの餌食にならないよう企業体質を筋肉質にしたりする必要がある。だが、社員の一部からは「黒字なのに改革の必要があるのか」との声が上がった。

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文=瀬戸久美子 写真=吉澤健太

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