経営・戦略

2025.12.30 13:30

JX金属 林陽一、ENEOS独立で見せた覚悟と再成長論

林 陽一|JX金属 代表取締役社長 社長執行役員

理解を深めるため、タウンホールミーティングを開き、改革で成果をあげた人を表彰するなどの施策を行った。23年に社長に就任した林も、先頭に立って汗をかいた。ただ、それでも「全員が納得していたわけではない」と明かす。

advertisement

空気が変わったのは上場してからだ。同社は半導体用スパッタリングターゲットで世界64%のシェアをもつ。そうした強みもエネルギー会社の一金属部門では埋没しがちだったが、「上場後は市場の反応が直接届く。役員レベルは、いい意味で緊張感を抱いています」。
 
現場にも変化があった。IPOによって一般社会から注目されるようになり、会社の認知度が高まってきたことで、それまで以上に社員が会社に対して誇りをもち始めたのだ。

林には若手のころの忘れられない思い出がある。新卒で配属されたのは機能材料部門。売り上げは伸びていたが、利益がついていかなかった。現場はそれぞれの立場で原因を探ったが、情報が錯綜して効果的な手は打てていなかった。そんなとき、林はある社員が「労務費が高いのでは。事業を分離して、自分たちの給料を80%に下げよう」と提案するのを聞く。

みんな事業を愛して必死にやっているのに、賃金カットを自ら申し出るのは違うのではないか。若手の自分にも何かできることはないだろうか──。

advertisement

使命感にかられた林は、各製品の取引先やサイズごとの損益をひとりでデータ化。それを上司に提出したことがきっかけで議論に道筋がつき、部門は息を吹き返した。 

「事業を悪くしようと考える人はひとりもいません。それぞれの考えをくみ取って整理すれば、価値は必ず出せます。今でもみんなを引っ張るより、社員たちの媒体的な動きをするほうが私は得意です」

実際、IPOの場面ではさまざまなステークホルダーの声を聞きながら上場にこぎつけた。林の調整力が生きた格好だ。一方で、これからはリーダーとして発信力が重要だという自覚もある。

「資源、製錬・リサイクル、半導体・情報通信材料の各事業はサプライチェーンでつながっていますが、投資家のみなさんにはわかりにくく、コングロマリット・ディスカウントで評価されかちです。ここはもっと説明していかなければいけない。社内に関しても、会社の顔が見えづらい面がありました。こうしたことから、9月に改めてフィロソフィーを策定・発表しました。今後はフィロソフィーを社内に浸透させ、より一層、社員に愛される会社にしていきます」


林 陽一◎1967年、東京都生まれ。上智大学法学部を卒業後、8年に日本鉱業(現・JX金属)入社。2019年に執行役員経営企画部長、21年取締役常務執行役員、22年取締役常務執行役員プロジェクト推進本部審議役を経て、23年4月から現職。

JX金属◎日立鉱山が源流の非鉄金属大手。基礎材料、半導体材料、情報通信材料の3つのセグメントで事業を展開している。2040年までに半導体材料や情報通信材料のグローバルリーダーになることを目指す。

文=瀬戸久美子 写真=吉澤健太

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事