筆者は2019年、ある暗号資産プロジェクトに関わっていた。プロジェクトの目的は、既存の法定通貨が著しい機能不全に陥っている状況において、大規模な商業活動に実用的な基盤を提供することにあった。もちろん筆者は、過去にも常に機能していた完全な金本位制を支持していたし、関係者たちも、それが「理論的には」、また「最終的には」良いものであるという点には同意していた。
けれど当時の認識は、何らかの中間的なステップが必要だというものだった。たとえば仮にある国が今日、100%金本位の通貨を導入したとすると、その通貨の価値は金に固定されることになる。そうなると、ほかの主要な法定通貨との為替レートはひどく不安定になってしまい、貿易や金融に多大な困難をもたらすことにもなる。たしかに、奈落の底に落ちるべくして落ちるであろう現在の法定通貨に追随するのはごめんだ。一方で、この中間段階で外国為替の混乱に巻き込まれ、ぼろぼろになりたくもない。
そこで2019年のプロジェクトでは、40%を金、60%を米ドルで裏づける通貨にするという解決策が考案された。米ドルは、世界の法定通貨圏全体の「代理変数」と見なされた。なぜなら主要通貨(米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドなど)は、為替変動を抑えるため、互いにかなり近い値動きをする傾向にあるからだ。将来的には、この60%の法定通貨部分はほとんど無価値となり、実質的に金のみを裏づけとする通貨になるかもしれない。それでも当面は、2つの世界に片足ずつ置くのが最良の案に思われた。
中国やインド、ブラジル、ロシアなど新興国でつくるBRICSは最近、似たような仕組みを導入した決済通貨案を発表した。その通貨は、いささか味気なく「ユニット(Unit)」と名づけられている。ユニットもまた、40%を金、60%をBRICS加盟諸国の法定通貨のバスケットで裏づける予定となっている。そうした仕組みにした理由のひとつは、準備資産の60%を国債で構成でき、金地金だけに依存せずに済むからだ。19世紀の金本位制時代には金を担保とする債券が発行され、それを準備資産にできたわけだが、現代はまだこうした市場はあまりない。



