メイン州は、同様の救済措置を提供しなかった。当初、州はIRSの判断に従う姿勢を示し、夫妻にとっては朗報となった。だが最終的には、「救済を実行する制度的な仕組みがない」として、対応できないと判断した。その結果、クック夫妻は州税に加え、利息や罰金についても支払い義務を負い続けている。
夫妻は、メイン州選出のスーザン・コリンズ上院議員(共和党)の事務所にも相談した。同事務所はIRSとの調整には関与したが、州税については支援できなかったという。その後、夫妻は州議会議員にも連絡し、税額の不服申し立てを続けている(コリンズ議員の事務所と州当局はいずれも、コメント要請に応じなかった)。
医療保険料の大幅な引き上げ
税務問題の決着を待つなか、夫妻は新たな負担に直面した。2024年末、夫妻のもとに1通の通知が届いた。申告所得の増加を理由に、2025年のメディケア自己負担額が大幅に引き上げられるという内容だった。
背景には、メディケアの保険料の仕組みがある。連邦政府による医療保険プログラムのメディケアでは、*保険料は加入区分(パートA、B、D)と所得水準によって変動する。入院医療をカバーするパートAについては、多くの人が保険料を支払っていない。本人または配偶者が少なくとも10年間にわたり就労し、メディケア税を納めていれば、パートAの保険料は原則として無料だ。
一方、外来診療や医師の診察をカバーするパートBと、処方薬を対象とするパートDの保険料は、所得に応じて決まる。2025年のパートBの標準保険料は1人当たり月185ドル(約2万8860円)で、2026年には202.90ドル(約3万1650円)に引き上げられる予定だ。パートDの保険料は、加入しているプランと保険会社によって異なる。
ただし、所得が一定の基準を超えると、保険料に上乗せが発生する。これは「所得連動型月額調整額(IRMAA)」と呼ばれるもので、2年前の修正総所得(MAGI)を基準に算定される。所得が高いほど、上乗せ額も大きくなる。
退職金口座からの引き出しによって所得が膨らんだ結果、クック夫妻は現在、月額約1000ドル(約15万6000円)の保険料を支払っており、来年はさらに負担が増す可能性がある。
この負担の適用の再審査を求めることは可能だ。たとえば、退職直後の人は、就労していた前年に比べて翌年の所得が大きく下がるケースが多く、再審査は一般的に行われている。また、計算に誤りがあると主張することもできる。クック夫妻もその手続きを選び、社会保障局(SSA)の窓口を訪れ、詐欺被害による損失を反映させた修正後の確定申告書を提出した。
だが、返ってきた答えは冷淡だった。SSAはIRMAAの算定にMAGIを用いており、MAGIには詐欺損失による控除は反映されない。しかも、その扱いを変更する手段はないという。夫妻は不服を申し立て、複数回にわたって異議を唱えたが、いずれも退けられた。また、行政法判事の審理にも臨んだ。判事は同情を示したものの、「現行法の枠内では夫妻に有利な判断はできない」と述べた。
この案件は現在、米保健福祉省(HHS)の審査委員会に移っている。「どうなるのか、正直わからない」とラリーは語っている。


