朝井リョウ×令和ロマンくるま:2026年の注目テーマは?

朝井リョウ(写真左)・くるま(同右)

朝井リョウ(写真左)・くるま(同右)

現在発売中のForbes JAPAN 12月24日発売号「2026年総予測 新時代がわかる『100の問い』」特集は、毎年恒例の未来予測号。今年の表紙は、今注目を集めるAIスタートアップ企業のアンソロピック、代表取締役社長のダニエラ・アモディ。そのほか、2025年のノーベル経済学賞受賞者、ジョエル・モキイア米ノースウェスタン大学教授をはじめ、ピーター・ターチン教授、ジョセフ・ヒース教授、ダニエル・ヴァルデンストロム教授など世界的な有識者へのインタビューを掲載。庵野秀明×山崎貴の豪華対談や天才科学者として話題の木村建次郎教授と「地面師たち」の小説家・新庄耕の対談も。30歳以下が選んだ「2026年 注目すべき100人」まで、Forbes JAPANの編集による「多様な未来の見方」を提示する。

界隈ごとの「分断」が広がる世界で、エンタメはどこへ向かうのか?小説家・朝井リョウと漫才コンビ・令和ロマンのくるまが、未来をつくるエンタメの力を探る。


2025年に作家生活15周年を迎え、ファンダムをテーマにした初の経済小説『イン・ザ・メガチャーチ』を上梓した朝井リョウ。くるまは、令和ロマンで「M-1グランプリ」2連覇後に幅広い活躍をみせ、26年5月には2万人規模のKアリーナ横浜での単独公演を控える。25年、偶然にも“船”から降りたふたりが、それぞれの目線からエンタメの現在地と未来を語った。

──2025年はそれぞれ節目を迎え、エンタメの生み出し方に変化はありましたか。

朝井リョウ(以下、朝井 くるまさんはずっと「M-1を盛り上げる」といって漫才に身を捧げてきましたよね。実際にM-1を壮絶に盛り上げて、世間はくるまさんをM-1、さらにいうと吉本興業の申し子のように見ていました。そこに飛び込んできたのが契約終了のニュース。私はそのとき、「この膨大なエネルギーが外の世界に解き放たれたんだ」と思ったんです。今日お会いしたら、その少々常軌を逸した貢献欲が今どこに向かっているのかお聞きしたかった。

くるま:まるで今まで縛りつけられてたみたいじゃないですか(笑)。そもそも純粋に利他的な精神から「M-1を盛り上げる」と言っていたわけではないんです。自分はいろいろなものから逃げまくって、流れ着いた場所がM-1でした。そこに住まわせてもらったから、せめて家賃を払わないといけないなという気持ちで「貢献したい」と。

朝井:最初に借りがあって、心理的な負債を返すような感覚だったんですね。

くるま:1回目(23年)の優勝後、そこに安住することが嫌で、「来年も出ます」と言いました。でも実はそこからの焦燥感がすごくて。連覇したら強制的に卒業で、できなくてもおそらく卒業になる。

そんなときに「30 UNDER 30」に選んでいただきました。連動のポッドキャスト番組にMCとして出演しているのですが、さまざまな分野で活躍する同年代のゲストと話すうちに、何かしら次の場所が見つかるという予感がしてきたんです。特に25年にフリーになって船から降りてからは、大海でたくさんのお魚と一緒に泳いでいる感覚。海にいるのは分かってて、「どこに向かうんですか?」って聞かれるけど、船がないからわからない。でも、いろんなお魚と少しずつ仲良くしてきているというか……アリエルですね、リトルマーメイドになりたいです! 2026年、僕はアリエルを目指しています! 今、奇跡的に着地しました(笑)

9月にはレッドクリフの佐々木孔明さんと「ドローン漫才ショー」を行うなど、多様な方とお仕事する機会が増えました。お笑い以外の分野の方々にも少しずつ受け入れてもらううちに「ここに貢献したい」という場所ができてくる気がしています。

朝井:船から降りたという点では、私もくるまさんに近いかもしれません。25年の自分のキーワードは「中断」。『イン・ザ・メガチャーチ』は15周年記念作品ですが、執筆していたのは前年で、25年はほとんど小説を書いていないんです。

25年9月に発売された作家生活15周年記念作品『イン・ザ・メガチャーチ』
25年9月に発売された『イン・ザ・メガチャーチ』。ファンダム経済を舞台に「今の時代、人を動かすものは何なのか」に迫った。

以前とある漫画家の方が「週刊連載は健全ではない」と話してくれて、腑に落ちたことがあります。というのも、私は当時2紙続けて新聞連載をしていたから。その2、3年は原稿のストックのことばかり考えて、生活がちっとも楽しくなかった。人生は長距離走であり、時には立ち止まって休んでもいいと、ほかの人に対しては言えます。でも自分にはそう思えなくて、短距離走を休む間もなく繰り返していました。それをようやくやめられたのが25年でした。

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文・構成=村上 敬 写真=ヤン・ブース ヘアメイク=ミカミヤスヒロ

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