「考察ブーム」が次のエンタメの兆し?
朝井:「マントルまで貫くエンタメ」のほかに26年のテーマをもうひとつあげると、「お金以外」ですかね。世の中色んなものが流行っていますが、結局はお金が流行っていることと変わらない気がして。
『イン・ザ・メガチャーチ』はファンダム経済を舞台にしています。私はファンダムそのものは好きだし、肯定的です。本名や職業を知らない人でも“同じものを好き”という一点だけで家に招くほどの関係になるって、今の社会でなかなか貴重なこと。ただ、そこに資本主義の論理がくっついて「ファンダム経済」となった途端、警戒心が高まるんです。
資本主義に還元されてこそ流行るという側面もあるのですが、それだと推し活も結局資本主義の内部に閉じ込められてしまう。金銭を介さない場所に存在する癒やしや救済がそろそろ必要なのでは、と。
くるま:受け売りですが、AI時代になると人は働かなくてもよくなって、お金からも解放されるとか。ローマ帝国は奴隷でそれを実現しましたが、そのとき市民が熱狂したのは格闘技、グルメ、哲学など。別の軸になる候補は、そのあたりでしょうね。
哲学に近いと思いますが、最近の「考察」ブームはその兆しかも。たとえば僕は24時間主観で生きているだけですが、見る人が僕の言動を解釈して何か意味をつけてくれる。解釈することがエンタメとして成立してるんですね。そう考えると、人が自分の文脈でどうにでも解釈できるものが次にくるのかなと。
朝井:くるまさんって、まさに解釈されて哲学される対象ですよね。存在が巨大というか、何か語りたくなる人。
くるま:潤滑油のイメージで受け取られているんじゃないでしょうか。日本でお笑いが「お」を付けて呼ぶような特別な位置づけなのは、ピリついてなくて、人のダメなところを上手に受け止められるからだと思います。例えば今、朝井さんが炎上しそうな発言をしても、僕はそれをお笑いにできるし、「くるまのフリが悪い」と僕のせいにしてもらうこともできる。摩擦を減らすように都合よくどうにでも使えるのがお笑いの役割であり、だからこそ考察の対象になる。
朝井:今の話を聞いて、くるまさんならあらゆる界隈のつなぎ目になれるんじゃないか、と思いました。今、全員で同じ世界を見ることができなくなっている気がするんです。大きな戦争が起きれば「今は一回みんなでこれに向き合おう」となるでしょうが、ポジティブな方法でその状態をつくる難しさを痛感していて……という中での潤滑油ですよ。確かにくるまさんって、どれだけバラバラの人間たちの集団の中に放っても、無数のつなぎ目をつくってくれそう。
くるま:思い浮かんだのは『森田一義アワー 笑っていいとも!』(フジテレビ系列)の最終回(14年)ですね。クセの強い方々が全員集合して、タモリさんのMCでまとまりました。あれを社会とか世界のレベルまで広げられたらすごいですよね。僕がめっちゃ頑張って言語覚えてG7とか回したら、世界を平和にできるかも。そうなれるように頑張ります!!

あさい・りょう◎1989年、岐阜県生まれ。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。『何者』で直木賞、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞、『正欲』で柴田錬三郎賞を受賞。ほかの著作に『スター』『そして誰もゆとらなくなった』『生殖記』など多数。
くるま◎1994年、東京都生まれ。松井ケムリとの漫才コンビ「令和ロマン」で「M-1グランプリ」2連覇。「世界の果てに、くるま置いてきた」(ABEMA)や映画『ミーツ・ザ・ワールド』への出演、ポッドキャスト番組「3003‐サンゼロゼロサン‐」MCなど、個人活動も精力的に行う。著書に『漫才過剰考察』。


