新庄:もし、今度の作品を通じて問題提起したいことがあるとすれば、本来、木村先生のような世界を変える可能性をもった天才を、社会全体で支え、応援していくべきだという点です。にもかかわらず現実には、多くのしがらみが立ちはだかっている。マンモグラフィひとつとっても、認可取得の手続きの煩雑さや、競合他社による妨害によって無意味な停滞が生じてしまう。その停滞の裏側では、救えたはずの命が失われているかもしれず、義憤をおぼえます。少しでも小説で世論の後押しができたらな、と。
木村:実は今、先生がおっしゃられたことにいちばん苦労していて。いつも周りの人たちにフォローしてもらっているんです(笑)。
だから、感性の高いトップがいれば話は早い。トップダウンで「国を挙げて支援するから、進めなさい」となる。マンモグラフィが浸透してない国では、すんなりと進められる部分もあります。浸透していれば、反発が出るのは仕方ないことですから。
所有に価値がなくなる未来
──物体の透視から不老不死まで驚くようなテクノロジーの話が出ましたが、人々の価値観はどのように変わるでしょうか。
新庄:透視技術や開発中の新技術によって、地中の資源を探るだけでなく、新たな資源の創造や、”寿命”という概念すら書き換えられうる。つまり、これまで有限とされてきた資源や寿命を無限化する可能性があるのです。もしそれが実現すれば、”争い”という言葉すら過去の遺物になる社会が訪れるかもしれません。
木村:人間って本当にバカですよね。所有で競い合って。でかい家をもっているとか、でかい車をもっているとか、うちの国は石油があるけど、お前の国はないだろうとか。そんなものよりも、信頼や愛情など、お金では表現できないものに本当の価値がある。それなのに、人間はいつも所有に囚われたまま、国も人も組織もずっと争っていて、本当にくだらないですよ。有限が無限になれば所有する価値はゼロになるので、社会は大きく変わるだろうなと思います。
──これからさらに研究を進めていきたい分野やテーマはありますか?
木村:笑われるかもしれないですが、いずれはタイムマシンをつくりたいんです。今ホーキング理論を勉強して設計図を考えているところで。一応理論上は実現可能なのですが、実験をどう組んだらいいかわからなくていろいろ試行錯誤しています。
新庄:研究ジャンルがあまりにも多岐にわたっているので、とても一本の小説では描ききれないですし、多くの読者がついてこれない。あまりにも先生の研究が壮大すぎて。シリーズ化すればいけるのかな。「タイムマシン編」、「エジプト宝探し編」って(笑)。
木村: タイムマシンが完成したら歴史上の偉人に会いに行きたいですね。クレオパトラとか織田信長とか。「本能寺で光秀に殺されるで」って(笑)。
時空とは何なのか、存在とは何なのかという問いに答えを見出すことが、僕の人生の最終目標です。


