サイエンス

2025.12.27 11:30

「地面師たち」の作者と天才科学者は「不老不死」の先をどう描くのか?

木村建次郎|応用物理学者(写真左)・ 新庄 耕|小説家(同右)

新庄:あと5年で人の死因がなくなると。

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木村:ほとんどの研究者は、今ある病気を治そうと薬をつくったりしますが、僕は違う。最初から「死ぬ瞬間」を止めてしまえばいいのではないかという考え方です。つまり心停止が起こらないようにすれば人間は死なないことになる。とても単純な発想です。

──それが実現したら、どうなるのでしょうか。

木村:老化は止められないので、じわじわ死に向かうことにはなりますが、がんや糖尿病、心筋梗塞などの病気で苦しむ人はいなくなり、ある日いきなりストンと死んでしまうこともなくなります。薬よりまずはそこだろうと。計算上、平均寿命は150歳以上になるので人口はかなり増えるでしょうね。誰も死を恐れなくてよくなる。

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新庄:木村先生がすごいのは、こうした「発想の転換」ですよね。病を治して人間の寿命を延ばそうとするのではなく、死そのものの原因を取り除いてしまうという。多分それは普通の人にはなかなか思いつかないことです。

「波動散乱の逆問題」

新庄:「波動散乱の逆問題」も、多くの研究者が行ってきた従来のアプローチとは異なる方向から解決に至っていますね。

木村:「波動散乱」とは、物体に照射した電磁波などの波が表面で跳ね返って散乱すること。このとき物体の形状がわかっていれば、跳ね返った波動がどのように散乱するかは、物理学の方程式(波動方程式)で求めることができます。しかし逆に波動の散乱の様子から物体の形状を求める「逆問題」の計算方法は確立されていませんでした。

──木村先生は、虫食いの理論を導くことで「波動散乱の逆問題」を解決、その方程式を用いて、これまで障害物に遮られて見ることができなかった物体や物体の内部を可視化する、つまり物体を透視する技術を開発し、事業につなげています。

木村:乳がんを発見するマンモグラフィや、発火する可能性の高い蓄電池を検査するシステム、危険物のもち込みを検知するセキュリティシステムなどを開発し、商品化しています。最近は、透視技術に興味をもった人や企業からの問い合わせも多くなっていて、なかにはピラミッドを透視して財宝の有無や場所を確かめたいという考古学者からの依頼も進めています。基本的に依頼は全部受けることにしているので、ジャンルを問わず常に200件以上のテーマで研究やプロジェクトを、50人くらいの体制で同時進行しています。

新庄:先生の技術を使えば、遺跡を壊す必要がないですからね。あらゆるところにビジネスチャンスがある。

木村:IGSに出資してくれている投資家が、「これからはテクノロジーそのものが通貨になる」と言ってくれて、それ、かっこいいなと思いました。

新庄:投資家らしくていいですね。小説は物語なのでいくらでも未来の話を書けるんですけど、先生のほうが先を行っていて、こちらの頭が追いつかない。研究に没頭して先へ先へとどんどん進んでいく、その原動力はなんですか?

木村:楽しいからです。

新庄:先生、寝ていませんよね(笑)。

木村:そうですね。いつも寝ているような起きているような感じで、まどろんでいます。

しんじょう・こう◎小説家。1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。2012年『狭小邸宅』で第36回すばる文学賞を受賞しデビュー。都市社会のリアルを鋭く描く作風で知られ、著書に『狭小邸宅』『ニューカルマ』など。『地面師たち』は、24年にNetflixでドラマ化され、国内外で大ヒットを記録した。
しんじょう・こう◎小説家。1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。2012年『狭小邸宅』で第36回すばる文学賞を受賞しデビュー。都市社会のリアルを鋭く描く作風で知られ、著書に『狭小邸宅』『ニューカルマ』など。『地面師たち』は、24年にNetflixでドラマ化され、国内外で大ヒットを記録した。
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文=三ツ井香菜 写真=淺田 創(MILD)ヘアメイク=吉田佳奈子

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