欧州

2025.12.18 12:30

ロシアの凍結資産と国際秩序の行方

ベルギー首都ブリュッセルに本拠を置く債券決済機関ユーロクリア前で、ロシアの凍結資産を差し押さえるよう訴えるウクライナ人。2024年4月11日撮影(Thierry Monasse/Getty Images)

舞台裏の動き

欧州側がよく理解している隠れた流れもある。それはこの対立が、緊張したマクロ金融環境と米国との脆弱(ぜいじゃく)な同盟関係に根ざしているということだ。米国の国家債務は11月、38兆ドル(約5900兆円)を超えた。英ロイター通信によると、外国による米国債の保有額は今年、9兆ドル(約1400兆円)を突破した。最大の保有国は日本で、米財務省によると、同国は約1兆2000億ドル(約187兆円)の米国債を保有している。英国、ベルギー、ルクセンブルク、フランス、アイルランドなどの欧州の国々も、主要保有国として名を連ねている。

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仏紙ルモンドは5月、米国の政策変動の影響を受ける貿易・安全保障環境で、外国による米国債保有が潜在的な交渉材料として政治的に敏感な問題となり得ると報じた。同盟国が米国の債務を「武器化」したいと考えている点が主旨ではない。なぜならそれは保有者にも経済的損害をもたらすからだ。むしろ、米国のロシアとの再連携により、同盟システムの金融基盤がもはや政治から守られていないという点が核心だ。

トランプ大統領の発言

米政府内では、トランプ大統領がウクライナへの支援の規模について誇張した主張をしたことで、議論が混乱している。だが、議論を明確にするには単純な方法がある。独立した追跡は、疑念に対する信頼できる解決策を提供する。

独キール世界経済研究所は、米国は今年半ばまでにウクライナ支援に約1340億ドル(約21兆円)拠出したと推定している。この米国の支援額は欧州が拠出した1950億ドル(約30兆円)と比べると見劣りし、トランプ大統領が提供したと主張する3500億ドル(約55兆円)よりはるかに少ない。

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トランプ大統領が裏付けのない数字を挙げると、同盟国は米国の約束は条件付きで、取引に基づくものであり、国内の再解釈に左右されるものだと結論付けざるを得なくなる。特に欧州がより大きな抑止力を担うことが求められている中で、この不確実性は戦略上の脆弱性となっている。

欧州の戦略

欧州がロシアの国家資産を無期限に凍結する決定は、戦略的な動きだ。これはロシアへの圧力を維持し、ウクライナへの財政支援を維持し、征服を正当化する和平案を西側諸国が受け入れる可能性を低下させることになる。また、トランプ大統領の政策の不確実性に対する予防策としても重要性を増している。米国が支援と関与回避の間で揺れ動く場合、ウクライナを支え、抑止力を維持する欧州の能力が主な懸念事項となる。この現実は欧州や米国だけでなく、ロシアの侵略の成否に直接的な利害関係を持つカナダや日本などの同盟民主主義国にも影響を与えている。

国際秩序を維持する基本原則

1945年以降の国際秩序は依然として1つの基本原則に依拠している。すなわち、国境は武力によって変更されず、侵略は正当な利益につながらないというものだ。西側諸国が欧州でこの原則を守れないのであれば、特に台湾のような地域でこれを擁護することはより困難になるだろう。

だからこそ、ウクライナへの長期的な支援と資産担保融資の枠組みに関する今後の議論は、極めて重要な局面と捉えるべきなのだ。持続的な平和には、単なる文書以上のものが必要だ。また、強制力、抑止力、そして侵略者に利益を与えない枠組みも必要だ。これらの要素がなければ、世界は安全にはならない。より露骨に取引が行われ、帝国主義がはびこることになる。

結論

EUがロシアの凍結資産に対して取った措置は、結論ではない。ロシアは異議を申し立てている。一方のベルギーは慎重な姿勢を保っている。法的枠組みは繊細かつ複雑だ。しかし、そのメッセージは明確だ。欧州はロシアの凍結資産を、繰り返される政治的脆弱性から安定した戦略的手段へと転換しつつある。それはウクライナを支え、影響力を維持し、国家主権の基本原則がわれわれの生きる世界の基盤であり続けることを保証する手段だ。

forbes.com 原文) 

翻訳・編集=安藤清香

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