ウクライナのイノベーション(技術革新)は「コストの非対称性」という考え方に導かれてきた。ウクライナ安全保障・協力センターのクザンは「海洋ドローンは技術的にわりと進んだものですが、製造コストは安く、1隻あたり25万〜30万ドル(約3900万〜4700万円)程度です」と説明する。
「ここで踏まえておくべき点は、全面侵攻以前から、ウクライナはロシアとの軍事的均衡を達成するのは不可能だと認識していたことです」とクザンは注意を促す。「したがって、海軍も非対称の原則に基づいて構築しなくてはならなかったのです」
適応サイクルを通じた圧迫
ウクライナがロシア艦艇への攻撃を続け、空中ドローン(無人機)を運搬する無人艇なども投入して作戦範囲を広げるなか、ロシアは繰り返し適応を迫られ、ウクライナの無人システムに対する防御方法の案出を強いられている。
ウクライナ特殊作戦軍の連隊と協力した経験をもつ元米特殊部隊員の「ゼン」の話では、こうした適応は、ウクライナの海洋ドローンに対するものも含めて、だいたい6週間から6カ月のサイクルで回っているという。新たな戦術が導入されると混乱が生じ、それへの対抗手段が講じられる。するとさらに、その対抗手段への対抗手段が早急に講じられることになる。ロシアとウクライナの間ではこうした技術や戦術の「いたちごっこ」が続き、かつては比較的自由に行使されていた「戦術・技術・手順(TTP)」は不可逆的に変容している。
米シンクタンクの海洋戦略センター(CMS)による以前の分析では、ウクライナの海洋作戦ではまず、ロシアの海軍アセットをクリミアから追い出し、次に黒海のほかの海域でその行動を制約することが目的になるとの見解が示されていた。実際、いまではおおむね後者の段階に移行している。
黒海艦隊のほとんどをノボロシースク方面に押し込めた現在、ウクライナは弱点を探りながら、発射プラットフォーム自体を直接攻撃している。ロシア軍の拠点に関する制約を突き、ウクライナの都市への爆撃能力を低下させる狙いだ。ロシア側が新たな対抗手段を模索せざるを得なくなる一方で、ウクライナ側は、ロシアの海軍作戦を絶えず圧迫してきた適応サイクルの維持を図っている。


