競争促進の先にある安全性への課題
グーグルは、日本のスマホ新法が欧州の「デジタル市場法(DMA)」を単純に模倣したものではない点を高く評価している。とりわけセキュリティやプライバシーの保護、さらにはユーザーの利便性を確保するために必要と認められる場合には、プラットフォーム事業者による一定の制限行為が正当化され得る余地が、制度設計の段階から織り込まれている点に注目する。
デイ氏は「日本の法律はより的を絞った内容で、重要なセーフガードが盛り込まれている」と述べ、欧州で見られるような画一的かつ過度な制約とは異なり、現実的なコンプライアンス対応が可能になるとの見解を示した。
さらにデイ氏は、Androidが多層的なセキュリティレイヤーを備えている点に触れ、グーグルとしてはオープンなエコシステムを維持しながらも、スマホ新法の施行後に求められる措置を適切に講じることで、悪質なアプリやマルウェアからユーザーを守ることが十分にできると述べた。
スマホ新法が掲げる「競争促進」を中長期的に実現するためには、他にも乗り越えるべき課題がある。
ひとつはグローバル市場における分断のリスクだ。欧州のDMA、日本のスマホ新法、そして米国の司法省による提訴と、グーグルやアップルのような巨大プラットフォーマーを対象とする法規制が地域ごとに乱立し始めている。
今後プラットフォーマーが地域ごとにOSの仕様や機能を改修する必要に迫られ、その開発・運用コストが肥大すれば、その負担が中小規模の開発者、あるいは手数料への転嫁という形で一般ユーザーにふりかかることも考えられるだろう。
イノベーションの停滞にも注視する必要がある。スマートフォンを通じて新しい機能やサービスを提供する企業が、都度各国の規制当局によるコンプライアンス審査を経る必要性に迫られれば、開発スピードが鈍化する懸念がある。または法規制に抵触しないことが最優先とされ、企業のチャレンジ精神が育まれなくなれば、イノベーションはたちまち停滞する。あるいは法規制が厳しい地域のみ、新機能の提供が見送られる場合も起こり得る。
また、セキュリティリスクがユーザー側に押しつけられる事態も避けなければならない。サイドローディングや外部決済が一般化すれば、フィッシング詐欺やマルウェア感染のリスクが高まる可能性がある。制度による開放が進んだ結果、プラットフォーム事業者がセキュリティ事故への責任を「ユーザーの自己責任」として扱うようになれば、利用者保護の観点から問題が残る。
グーグルは、スマホ新法に対して「既存のオープン戦略の延長」として冷静かつ協調的な姿勢を見せている。これは、ビジネスモデルの根幹に関わる修正を迫られるアップルとは対照的であり、短期的には規制対応においてグーグルが優位に立つ可能性もある。
しかし、法律の真価が問われるのは施行後からだ。リンクアウトプログラムが本当に実りある競争を生み出せるか。そして、規制強化によるコスト増大やセキュリティ低下といった、いわば副作用を最小限に止めることができるのか、今後も注意深く見守る必要がある。
連載:デジタル・トレンド・ハンズオン
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